「どうしたの?ボウっとして?」
マグカップのコーヒーに映る自分の顔は歪んでいる。臨也に呼びかけられている事に気がついた俺は顔を上げた。
「あ・・何だ?」
「何だじゃないよ、さっきから話かけてるのにさ・・あ、ブラック駄目だったよね?」
そーだ、そーだと立ち上がって真新しいキッチンに向かう。
「引越し疲れかな?はい、お砂糖と牛乳!」
俺と臨也は一緒に暮らし始めた、今日が最初の一日目。引越しのダンボールはまだ残っているけど粗方配置は整えた。俺たちの家から寄せ集めた家具が並ぶ、この空間はなんだか気恥ずかしい。
「何せ、ほとんど荷物運んだの俺だからなぁ〜」
照れ隠しに、嫌味の一つでも言いたくなる。
「え〜だって、俺の細腕が折れたら、君を養えなくなるだろ?」
「養えなんて言ってないだろ・・!手前が仕事辞めろっていうから!」
クスリと笑う臨也は、俺のコーヒーに砂糖と牛乳を入れてかき混ぜている。
「だってシズちゃんを外に出したく無いんだもん。ほら、牛乳多めにしといたよ」
手渡されたカフェオレは大分色が白く、俺の好みになっていた。
「こんな田舎に家まで買ってさ?俺を飼い殺す気なんだろ」
「ああ、それは良い案だね、首輪でもつけてみる?」
ニコリと笑った奴の顔は嬉しそうで、俺は舌打ちをする。
「冗談やめろよ、お前が飼い主なんて想像しただけで恐ろしいぜ」
「そう?俺、犬は好きだよ。毎日ブラッシングして、美味しいご飯あげて、それから夜はとびきり可愛がってあげるつもり」
俺の髪を触りながら、赤い目を細める臨也は柔らかく笑む。
「ならお前に飼われる犬は幸せだな」
「そうさ、俺に飼われれば幸せだろ?」
俺の顎を撫で、顔を近づけてくる奴は俺の額にキスを落とす。
「・・後悔してないのか?全部捨てて俺と暮らすなんて」
「後悔する必要なんか無いだろ、シズちゃんと二人でいられるのに何を他に求めるの?」
手に持ったカップは温くて丁度いい、甘みの強い中身を飲めば癒された気分に浸る。
「俺も、臨也がいればそれでいい」
「シズちゃんは良い子だね。おいで、抱っこしてあげる」
「・・おい、俺は犬じゃねぇんだぞ」
「知ってるよ、本当の犬なら俺になんて懐かないさ、だって餌に毒が入ってれば、きちんと嗅ぎわけるもの」
急に視界が揺らぎ、奴の腕の中に俺は倒れた。
「ああ、やっとシズちゃんを俺のものに出来る」
俺の体をソファに横たえさせ、立ち上がった臨也は小脇にタンクを抱えてきた。
中の液体をかけられる。「ごめんね、俺、犬って本当は嫌いなんだ、あいつら誰にでも懐くだろ?」
「・・い、ざ・・・」
「ああ、口も利けないんだね、分量間違えたみたい。」
ガソリンの臭いが辺りに充満する。
「シズちゃんが他の奴に笑いかけるのを見ていられない、シズちゃんが他の奴に触られるなんて許せない。だから、これで永遠に俺だけのものにする。いくら君でもずっと燃やされ続ければ、いつかは燃え尽きるだろう?」
カチリと俺のライターを点ける臨也は優美に微笑む。
「灰になっても誰にも渡さないから」

黒い煙に巻かれながら、俺の意識はそこで終わった。




永久機関2






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -