※斎藤さんがコンタクトレンズに挑戦するそうです。
「では、斎藤さん、まずは私が入れますからね」
コンタクトレンズについて一通りの説明をしたあと目の前の看護師、雪村が笑顔で言った。
社会人になってからというもの長時間のデスクワークなどで眼を酷使した俺は裸眼では生活に支障を来すような視力になってしまった。普段は眼鏡で事足りるものの、剣道をするときはやはり不便だと眼科でコンタクトレンズを作ることにした。
前回は検査、今回は検査に基づき実際にテストレンズを入れてみることになっている。
初診からこの雪村という看護師は親切丁寧に対応してくれとても感謝している。そして時折その笑顔に目を奪われ……いや、俺は何を考えているんだ。邪念を振り払うように軽く頭を振った。
「じゃあ、右目から入れますね……あ、その前に」
雪村はそっと俺の前髪を撫でた。その感覚にどくりと胸が高鳴る。
「前髪、留めておきますね」
いつの間にやら出された髪留めによって視界が開けた。
「顔は真っ直ぐ、目は下を見ててください。自分の爪先を見るような感じで」
雪村の手が俺の瞼に触れる。コンタクトを入れる為に愛らしい顔が近付き、それから目が離せなくなってしまった。
「あの、斎藤さん……あまりこちらを見つめられると入りません」
少し顔を赤くしながら困ったように言う雪村にハッとして身を離した。耳のあたりが熱いのは気のせいということにしておこう。