初めて君を見つけたのは冬の夜だった。
凍るような空気に漂う鉄の混じった香りに、何故か僕は興奮したのを覚えている。
きっとその時には既に僕は変わっていたのだろう。
分岐点は初めて人を殺めたあの時か、それとも江戸を発つと決めたあの日か。どちらにしても、遅かれ早かれこうなることは予感していた。
恐怖が滲んだ瞳には青白く光る刃が映っていて、嗚呼、運の悪い子だな、なんて思った。
何故あの瞬間をこんなにも鮮明に覚えているのか不思議だった。もしかしたら、無意識のうちに君とは長く深い付き合いになるってわかっていたのかもしれない。まあ、本当のところは分からないけれど。
とにかく、あの夜のことは数年経った今でも僕の中に色鮮やかに残っている。
きっと、これからもずっと。たとえ僕を見失ったとしても、瞼の裏に刻まれた残像が消えることはない。
「……もう、大丈夫だよ」
「沖田さん……」
「大丈夫だよ、治まったから」
段々と呼吸が楽になってきて、嗚呼、何とか凌いだんだなと安心する。まあ、束の間のものだけど。
「……私は…私は平気ですから、だから」
「血はいらない」
僕が鋭い目線を向けても彼女が動じることはなかった。あの日と同じ少女のはずなのに、随分と肝が据わったものだ。
……いや、もう少女ではない。男装では隠しきれないほどに彼女は成長してしまった。僕たちの籠の中で。
大きく翼を広げれば羽ばたけるのに、この鳥はそれに気付いていない。そろそろ教えてあげようか、だけど……。
狂いたくない。近藤さんの隣で刀を握って、そしてその後は彼女に出迎えてほしい。笑顔で、お帰りなさいって。戦場にはない、白く、染みひとつない心で。
でも、もし僕が戻れなくなったら、その時は君が終わらせて。
最後に見るのが好きな子なんて最高じゃない。それを焼き付けて、僕は地に還ろう。
そんな思索に耽っている僕を彼女が心配そうに見つめてくる。
本当に大丈夫だから、と声をかけて、それからゆっくりと立ち上がった。
空は藍と橙が滲んで混ざり合っていた。
落日が眩しくて、僕は目を細めた。