『ひかり』
このまま雨に打たれれば、いつか全て洗い流せるのだろうか。
鮮血に染めた両手。そのことに後悔はない。それでも躊躇ってしまう。深紅が純白に触れていいものかと。
水で垂れた前髪が視界を狭める。俺は自分の両手を見た。
どんなに水に溶かしても、限りなく薄くなったとしても、一度染まれば戻らない。戻せない。
「――…はじめさん」
「…体が冷える。中に戻れ」
そう言いながら真っ白な手が俺の無骨な手に触れた。反射的にびくりと避けようとしたが、それは叶わなかった。小さな手が離さぬと言わんばかりぎゅっと握ってくるのが心地いい。
触れるのが、汚すのが怖い。だがその温もりを欲するのも事実。矛盾だらけだ。
俺がどうしたものかと彼女を見れば、ふわりと笑顔を返された。まるでこちらの胸の内など全て分かっているというようなそれに、俺は僅かに目を見開いた。
「はじめさんが一緒なら」
「――…言うようになったものだな」
ふっと苦笑を零す。彼女には適わない。
「風邪をひく前に戻るか」
「はい」
二人で手を取り合い家へと入る。
彼女を色に喩えるならば、確かに白だ。だが白は白でも輝く、光そのものなのだろう。
無垢な幼子も、人を殺め罪に染まった俺でさえも、分け隔てなく照らす光。何にも染まらぬ強い光。
俺はその光を守ろう。あたたかな光を。この命が燃え尽きるまで。