自分の左腕をちらりと見やる。
――…あと一時間。
私は走った。とにかく走った。人と人の間を抜けた。赤信号を渡りた。時間切れの人間を踏みつけた。転がるように駆けた。
息は切れ肺が痛い。足も鉛のように重くて乱れた髪が視界を塞ぐ。
――…残り三十分。
それでも行かなくては。時間がないの私には。
「千鶴っ!」
遠く向こうに貴方の姿を見つける。もう限界だと言わんばかりに私の心音が大きく響く。酸欠で視界が霞む。それでも私は声帯を震わせた。
……十秒。
「 」
私の声は貴方に届いたのだろうか。
…三秒。
手と手が触れる。私は貴方の胸に飛び込んだ。
一秒。
ブラックアウト
身体を心地よい強さで拘束される。私はそっと抱きしめ返す。
零秒。
私の意識は闇に落ちた。