『零3ENDを土千変換』

※細かい設定は気にしちゃダメ!



ゆきなさよ、はたて

ゆきなさよ、はたて




私はふたりを小舟に乗せ、送り出した。小舟は灯籠と共に沖へと流れていく。行き着く先は彼の岸。



人の痛みを受け続けた彼女。

最期の時、愛しい人を目の前で失った彼女。

そしてその目にまで柊を刻んだ彼女。


今度こそ彼女は安らかに眠ることができるのだろうか?

そして、私は――…。


私は海面に映る橙色の灯りを見つめながらぼんやりと考える。


ふと人の気配を感じ視線を向ければ死者の行列。嗚呼、彼等もこの海を渡るらしい。

「ひじ、かた……さん?」

そこに私の想い人の背を見つけ、私は駆け出す。

「土方さんっ!!」

ばしゃばしゃと水が音を立てる。濡れた服がやけに重い。私は躓いたりしながら転がるようにして土方さんの背を追いかける。

すると土方さんは立ち止まり振り向いてくれた。顔を見れば彼がよくするちょっと困ったような笑み。私は立ち上がり縋るよう土方さんに抱きついた。

体中に青紫の刺青が広がりじりじりと痛む。でもそんなものは構わずに私は土方さんを抱く腕に力を込めた。

「土方さん、私っ……」

伝えたいことがたくさんあったはずなのに、あとからあとから涙が溢れ出して上手く言葉が紡げない。その間も土方さんは私をそっと抱き締め優しく頭を撫でてくれた。

「わた、し……土方さんがいないと駄目なんです」



貴方は、私の涙を拭ってくれた

貴方は、私を離さないと言ってくれた

貴方は、私にたくさんのものをくれた

貴方は、こんな私を愛してくれた


貴方は、あなたは、アナタは――…



「今度は、私も一緒に……っ」


貴方と、逝きます


「ありがとう……お前の気持ちは、よく分かってる」

土方さんは私の瞳を真っ直ぐ見ながら言葉を続ける。紫の瞳は皮肉にも今まで見たどんな色よりも綺麗だ。

「だが、俺は行かなきゃならねぇ」

ぽたぽたと垂れ落ちる雫を泣き虫だな、と言いながら土方さんは指で掬ってくれた。それが嬉しくて、切なくて、私はさらに涙を流す。

「お前が……千鶴が死んじまったら、俺は本当に消えちまう。新選組副長を知ってる奴はいるだろうが“土方歳三”を覚えててやれるのは、千鶴。お前だけだ」

土方さんが身をかがめ私に口づけを落とした。しょっぺぇなって笑いながら。

「……っ!!」

土方さんの胸に当てた私の手から、触れた唇から、私の柊が貴方に移っていく。

手元から土方さんの顔へと視線を戻せば貴方はひどく穏やかな表情で……。

「…っ土方さん、待ってください!!」


そのまま土方さんは振り向くことなく死者の列へと戻っていった。私は何故かそれを追いかけることが出来なくて、ただ泣き叫びながら小さくなる背を見送るしかなかった。



お前が生きてる時が、俺の時も生き続ける

だから……

だから、お前は生きろ

俺を忘れずに




気が付くと私は自室の布団にいた。

私の体に刻まれた刺青……柊は消えて見る影もない。

「ひじかっ…さん……」


私は自分自身を抱き締め泣き続けた。

この涙を拭ってくれる優しい貴方は、もういない。


だけど、残された私たちは生きていく。

今も鮮やかに残る痛みを抱えながら。





fin.


TOP


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -