その人は突然現れて、突然いなくなる。
*ほぼヒロイン出番なし



始まりは太宰さんの何気ない一言だった。



ある日の昼過ぎ。探偵社の事務所には僕と太宰さん、それから『理想』の文字を表紙に貼り付けた本に書いてある予定通りに仕事をこなしている国木田さんしかいなかった。
相変わらず太宰さんは机の上にある書類を片付ける様子もなく、これはまた国木田さんの予定が狂うだろうなと考えていたときだった。


「そういえば敦君。君は何故、横浜へ来ようと思ったんだい?」


太宰さんがイスをくるくる回しながら視線だけをこちらに向けてきた。


「ああ、それは知り合いが横浜にいるらしくて」
「らしいとはどういうことだ小僧」


珍しく国木田さんも会話に入ってきた。いつもなら太宰さんを黙らせようとするのに。


「孤児院で孤立してひとりぼっちだった僕と一緒に遊んでくれたお姉さんです。なんでもやっておきたいことがあるとかで横浜に行くって言ってました」
「その方は美しいかね?」
「まあ。でもどっちかって言ったら可愛いかな……あ!心中に誘うのはやめてくださいよ!僕の大事な人なんだから」
「なんで探さないんだ?」


僕は書類をまとめる手を止め、数年前のあの日のことを思い起こした。


「それは…..お姉さんが『私は存在を消せる存在。私を追ってきても見つけることは難しい。だけど私が敦君を見つけることはそう難しくないこと。だから困ったら横浜においで。私が見つけてあげるから』って言っていたからです」


あのときはまたひとりぼっちになると思って、すごく泣きじゃくったのを覚えてる。お姉ちゃん、ちゃんと覚えてくれてるかな…迎えに来てくれるかな…


「太宰」
「私も同意見だよ国木田君。」


ハッと我に返ってみれば、いつも喧嘩ばかりの太宰さんと国木田さんが目を合わせて頷いていた。なんだ。何かあったのか。


「敦君。そのお姉さんは『存在を消せる存在』と言ったんだね」
「そうです」
「それはどういう意味か分かるかい?」
「どういう意味、って……」


どういう意味。
意味、か。考えたこともなかったな。
首を傾げて考えこんだ僕を暫く2人は待っていたけど、一向に僕が答えることができないのをみかねたのか太宰さんが僕へ言った。


「正解は能力者だよ。そして我々はその女性を知っている」
「本当ですか!?」
「うん、もうすぐ来ると思うよ」


え?来るってここに?
そう尋ねようとしたら、いきなりドアからドンッと衝撃音がした。ひぇっ!と身構えた僕と対照的に国木田さんは何食わぬ顔をしてパソコンへ向き合っているし、太宰さんはグットタイミングだねぇ、なんて言いながらドアの方へ行ってしまった。えーっとなに、状況が理解出来ないんですけど…


「あーつーしっ!」


次の瞬間、僕はギュッと柔らかい感触といい匂いに包まれた。


* * *

この方、実は情報屋だとか太宰治マフィア時代の知人だとか異能力は希釈化と見せかけての記憶操作だとか、いろいろ考えたのですがこれも文章にすることが出来ず…断念。設定はちゃんと決めてあるのでいつか書きたいです。

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