「ずっと好きだったんです」

「あー、うん、気持ちは嬉しいんだけど...ごめんね」


なんともテンプレートな告白を受けいつものように断る。教室へ戻ろうとすると、


「相変わらず厳しい優しさだな、比奈村」

「柳、いたのか」


校舎の影から、我等が参謀柳蓮二が姿を見せた。


「歩いていたら目に入ったものでな。これから教室へ戻るのだろう、一緒に行かないか」

「ん、行く。......」

「どうした?」

「なあ柳、」

「何だ」

「好きって、どういう事だ?」

「どういう...とは」

「俺さ、分からないんだよ。人を恋愛感情で好きになるって事が」

「...聴こう」

「ありがとう。...そりゃ、好みとか訊かれれば答えるけどさ。いざ好きになるっていうと、どんな感じか分からない。家族や友人とは違う、って理屈では分かってるけど、気持ちが分からない」

「ほう...」

「だから告白してきてくれる子の気持ちって、ありがとうとか言っときながら本当はよく分かってないんだ。振られた時の辛さとか、叶った時の嬉しさとか」

「...そうか」

「本当に、本当に分からないんだよ。何であの子振ったの、いい子だったのに、とか言われても困る。好きになれないから振ったんだ、おかしいか?好きな奴に同情で付き合ってもらって、嬉しいのか?なあ、柳は?柳は知ってるか?恋するとどんな感じだ?そいつを想うと胸が苦しくなるって、どんな感じだ?なあ、なあ、なあ、なあ...」

「      」


何かをぽつりと呟くと、比奈村の体を引き寄せ、力強く抱きしめた。


「んむ、」

「比奈村」


掠れたような声で呼ばれる名前。心臓が跳ねた。


「...比奈村」

「やな、ぎ?」

「俺は、お前に恋をしている」

「え、」

「好きだ」

「あの、柳、それ、」


突然の告白。何故この流れで、何故今。戸惑っていると、喉からくつくつと笑い声。


「...どうだ?」

「え?」

「今の抱擁だ。吊り橋効果を知っているな?今の動悸を恋と勘違いすれば、恋愛感情が分かるやもしれない」

「からかうな!」

「お前が訊いてきたんだろう」

「阿呆!」

「阿呆とはなんだ阿呆とは。人の親切心を」

「うるさい!」


ぶっきらぼうに突き放す。その行動からは赤く染まった顔も、彼の体を支配している動悸も、可笑しそうに笑う声は気づかない。










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