短編集 | ナノ

私は君の、君は私の



▼昔書いてた話がでてきたので再アップ。
拙いのは悪しからず。

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「仙道くん、これ貰ってくれる?」

「仙道くん、これもっ」

「これもよかったらっ」



「みんな、ありがとう」



教室の入り口で広げられている会話は昨日と同じ。
というか、昨日どころか毎日同じ。

そしてそんな会話を毎日聞いて不機嫌になる――私。


群がる女の子の数は、日を増すごとに多くなっていっている気がするのは私だけじゃないはず。

その女の子たちの中心にいるのが―ー仙道彰。
陵南バスケ部エース兼キャプテン。

学校一のモテ男くんは今日も健在だ。



19時、一般生徒ならもうとっくに下校している時間私は一人で教室にいた。
電気を点けると先生が来て面倒くさいから真っ暗やみの中、携帯の光だけを教室に光らせる。


もうそろそろかな。


自分の席からちょうど見える体育館の明かりが消えた。
手に握られている携帯を閉じたり開いたりを数回繰り返していると、ガラガラッとドアが開かれた。



「遅くなってごめんね。待った?」

「……もう慣れたよ」



そっかと言いながら入ってきた人物は私がいるところまで来ると、腰を屈めてチュッと触れるだけのキスを落とし前の席に腰を下ろした。

額にはまだうっすらと汗が滲んでいるのが見える。



「名前ちゃんさ、そろそろ練習見に来てくれてもよくない?」

「やだ」

「俺は名前ちゃんが来てくれれば今よりもっと頑張れるんだけどな」

「やだよ。応援してくれる子ならたくさんいるじゃない、仙道くんには」



学校一のモテ男くんには、毎日クッキーやタオルを差し入れてくれる女の子がいるのを知っている。
嬌声に近い声援だって、毎日体育館には響き渡っている。

そんなところに私が行ったって、浮くだけなのは目に見えてる。
ただでさえクラスでも良くない意味で浮いているんだから。



「彼女の応援とファンの応援は違うでしょ」

「……調子いい時だけそんなこと言って。彼氏らしいこと何にもしてくれないくせに」



責めるわけじゃない。
分かってて付き合ったんだから。

三か月前、仙道くんからの告白に頷いたことから始まった恋愛だけど――毎日バスケでデートする暇はない。

話すのはこうして彼の部活後の放課後だけ。
公にしてファンからの反感を買うのは御免だから隠しているし、しょうがないっちゃしょうがないことなんだけど。

それでも人の欲は尽きるどころか増える一方なのが自然なわけで――



「ファンの子にはサービスいいくせに」

「ファンの子?何かしたっけ……俺」

「毎日毎日いろんなもの貰ってーニコニコ笑顔振り撒いちゃってさー」



私は机に掛っていた鞄を手にとって席を立った。

帰りながらでも話は出来るし、何よりこれ以上話していたらもっと嫌味なことを言ってしまいそうになる。

だけど行く手を阻んだのは、目の前の本人で。
私の左手首は仙道くんの左手に掴まっていた。



「ヤキモチ?」



仙道くんも立ち上がると、つかんでいた手首をグッと自分の方に引っ張って私の耳元に唇を寄せてわざとらしく囁く。



「そうじゃない、けど」

「素直じゃないなぁ」

「せんど、くん…」



チュッチュッとリップ音を立てて嫌らしくキスを落とす。



「最初に付き合ってること隠したいって言ったのは名前ちゃんだよ?」

「……」

「俺はみんなの前でもこうやって名前ちゃんが俺のものだって証明したいのに」

「……」

「ヤキモチ妬くくらいなら名前ちゃんも俺が名前ちゃんのものだって証明してよ」

「ファンの子…泣いちゃうかもよ」

「さっきも言ったでしょ。彼女とファンの子は別だって」



仙道くんは少しだけ顔を離して互いの顔に距離を作る。

それでも息がかかるほど近い距離に心臓はドキドキ鳴って、ただでさえ整い過ぎていて直視できない顔に目を逸らそうとすると顎を固定された。



「明日からは覚悟してね?」



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