アメリカに負けない約束を
▼昔書いてた話がでてきたので再アップ。
拙いのは悪しからず。
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夏のインターハイが終わった次の日、栄治から来た“話がある”と四文字だけ綴られていたメール。
いつもは“会いたい”の四文字なのに、この日だけは違ったせいで、あんまりいい予感はしなかった。
お昼の14時に家のチャイムが鳴り扉を開けると栄治がいた。
そのまま私の部屋に入った途端、不意に後ろから彼の両手が伸びてくる。
栄治は甘えん坊だから、こんなことは珍しくない。
私の肩に顔を埋め抱き締める手にギュッと力が入った。
「どうしたの?」
「んー会いたかっただけ」
「ふふ。栄治は甘えん坊だね」
こんな大きい体して。高校生にもなって。
でも、やっぱり今日もそんな栄治が可愛くて仕方がない。
インターハイで広島に行っていたせいで、会うのは実質一週間ぶり。
長いようで短かった一週間。
栄治より一つ上で今年受験生の私にとって、さすがに秋田から広島まで行くのは時間的にも金銭的にも断念せざるを得なかった。
「インターハイ、負けちった」
「…応援行けなくてごめんね」
「名前さんのせいじゃないよ。昨日の一試合で、いろいろ課題が見えた気がする」
「…そっか。誰にだって勝利も敗北も必要よ。そこからどう生かすかが大事。栄治はちゃんと課題が見えたって言ったんだから、大丈夫。まだまだ強くなれるよ」
心なしか、栄治の肩が小さく震えていた気がする。
…泣き虫栄治。
「強く…なりたい」
「ん」
「もっともっと上を目指して、挑戦したい」
「ん」
「俺、」
一度言葉を止めて、栄治は私の体に回していた手を解いた。
そして再びクルリと私の体を反転させて、前から抱き締め直す。
大きく鳴っている彼の心臓が体温と同時に伝わってくる。
「アメリカに行く」
「…え?」
…聞き間違いかと思った。
ううん、聞き間違いだと思いたかった。
目の前の彼が言葉を発した刹那、時間が止まったような感覚に陥った。
「すっげー名前さんと離れたくない。名前さんのこと残して行くのも一人で行くのも不安」
「…ん」
「でも、ずっと昔からの夢なんだ。妥協したくない」
そう言った栄治の言葉に迷いは感じ取れなかった。
「俺、すっげー名前さんのこと好き。バスケも好きだけど、名前さんのことも本気で好き。手放したくない」
「…ん」
「だから待ってて。いつか必ず成長して帰ってくるから」
その瞬間――
…私の瞳から涙が溢れた。
歪んだ視界を栄治の胸に強く押し付けて、何度も私は頷いた。
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