笑うどころか天国だ
▼昔書いてた話がでてきたので再アップ。
拙いのは悪しからず。
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「名前」
「なーに?」
「もし俺が好きだって言ったらどうする?」
「笑う」
「…はあ?笑うって、何でだよ!」
「だってエージが私のこと好きとか想像できないもん」
“もし”なんて、そんな仮定を使うのはただ怖いだけだ。
臆病者の俺を正当化する為の接続語にしかすぎない。
やっぱり…とでも言うのか。コイツは俺のことを何とも思っちゃいない。
どんなに学校で一番仲の良い存在でも、
どんなに今みたいにこうして二人っきりで、しかもそれが仮に俺の部屋だとしても――…コイツは俺を“男”として見ていない。
分かり切っていたことだけど…ショックだ。
「エージ」
「ん?」
「もし私が好きだって言ったらどうする?」
「……」
「笑う?」
「…笑わねぇよ」
もし名前が俺を好きだと言ったら――…そんなシチュエーションを何度夢見て願ったと思ってんだ。
例え話でも、こんなに嬉しくなる。
冗談だって分かっていても、こんなに俺の心臓はドキドキと鳴る。
バレないように何食わぬ顔でベッドに横になったまま俺は、週刊バスケットボールを広げた。
「エージが私のこと好きとか想像できないんだけどさ、」
床に座っていた名前が立ち上がると、俺の視線は落ち着きなく雑誌から離される。
雑誌に向けられていた俺の目は彼女に移動して、それと同時に彼女は俺の顔を覗き込むようにベッドに上半身だけ預けた態勢になった。
「私はエージのこと好きなんだよね」
何でだろ?小首を傾げる彼女の顔を下からのアングルで見つめるとやたらと色っぽく見えた。
っつかコイツ……今何つった?
名前が俺を――…
「……っは!?」
「…笑う?」
「いやいや、今何つった!?」
「もう言わない」
「いや、もう一回言って」
「やだ」
「お願い」
「いや」
「名前」
「いやだ」
「俺が名前のこと好きだって言ったらどうする?」
「…笑う」
「でも俺は、お前が俺を好きだって言っても笑わない。むしろ嬉しい。チョー喜ぶ」
聞き間違いか?
それともこれは夢か?
両方を否定する為に、なあ…頼むよ。
「だから、もう一回言って?」
「…エージが、好き」
…こりゃ、聞き間違いでも夢でもないっぽい。
駄目だ。嬉しすぎて顔が…。
「ちょっと!笑わないって言ったのに笑ってるじゃんっ」
そう言って頬を膨らまして怒った素振りを見せる。
「笑ってねぇよ!」
「笑ってるじゃんっ。顔がおかしいよ、変態みたい」
「だから笑ってないって。ニヤけてるだけだしっ」
「名前」
「…なに」
「好き」
「…私も」
笑わねぇよ。
でも、ニヤけるくらいは許してくれ。
こんなに嬉しい気持ちをこれ以上抑えることなんて出来ないから。
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