好きが故のストーカー
▼昔書いてた話がでてきたので再アップ。
拙いのは悪しからず。
――――――――――――――――――――――――――――
「名前ちゃん」
「なに」
「今日ヒマ?」
「暇じゃない」
「一緒に帰ろうよ」
「耳大丈夫?暇じゃないって言ったでしょ」
耳鼻科に言ったら?嫌味で言ったはずなのに目の前の男は心配してくれてるの?なんてニコニコしてる。
耳鼻科だけじゃなくて脳外科も必要みたい。
精神科へは随分前から勧めているけど、未だに通っていないらしい。
「仙道くんって何でそんなに頭悪いの」
「えー俺頭悪いかなぁ?」
名前ちゃんが頭良いだけじゃない?と呑気に首を傾げる。
ほとんどの女の子なら、こんな仕草一つでイチコロだろう。
190センチの長身を屈めて私の目線に合わす。
甘いマスクでニッコリ微笑みかけられれば、誰だってドキリと心臓を躍らすに違いない。
悔しいけど私だって例外じゃない。
しかもこんな教室で堂々とお誘いを受ければ、恥ずかしくだってなる。
それに動じず、平常心を保つのがどれだけ困難か。
「とにかく一緒に帰らないから」
「何で?」
「暇じゃないから」
さっきも言ったでしょとキッと目を向け、机の横に掛っている鞄を手に取って教室を出ようとする。
それなのに、そうじゃなくて、と仙道くんの声が私の背中を呼び止めた。
「何で名前ちゃんってそんなに冷たいの?」
「べつに冷たくなんて、」
「いーや、冷たい。越野とはあんなに仲良く話すし、一緒に帰ったりしてるのにさ」
「……」
「妬いちゃうよ?」
これって罠?
それともお得意のテクニック?
もう妬いてるんだけどね、と大胆なことを恥ずかしげもなく口にする仙道くん。
私には、毎日のようにこうして彼が構ってくる理由が少しも分からなかった。
教室に残っている生徒たちがキャーと小さな悲鳴に近い声を上げているのが聞こえてきた。
――と、ちょうどその時、タイミング良くおい仙道!と声がする。
「越野かよ。今いいところだから、邪魔しないで」
「何が良いところだよ。どうせ今日も名字に振られたんだろ」
「振られてねーよ」
「お前もいい加減諦めろって。監督もそろそろキレるぞ。最近のお前、プレーが散漫すぎんだよ」
すると、仙道くんははぁっと小さくため息を一つ吐いてこっちを見てから越野くんに何かを耳打ちする。
次には越野くんの口から盛大なため息が零れ、
「名字さ、今日だけでいいからバスケ部の練習見に来てくれないか?」
申し訳なさそうな顔で頼む、と両手を顔の前で合わせて頼み込んでくる。
「友達だろ?マジでバスケ部危ねーんだよ」
「はぁ?私、関係ないし」
「関係大有りだ。このままじゃ今週のインターハイ予選やべーんだ」
「だからって何で私が、」
反論しようとすると突然越野くんは部活遅れる!と言って頼むな!ともう一度言うと慌てて教室から出て行った。
……まじで何なの?
「今日だけ待ってて?」
「だから、」
「待っててくれたらもうストーカーみたいに付き纏わないから」
「……本当でしょうね?」
「もちろん」
約束だからねと渋々折れた私を見て、仙道くんはニッコリ笑みを浮かべ、部活のバッグを肩にかけて教室から出て行った。
(今日で終わりにするから)
(…本当かよ?)
(おう。だから、越野からも名前ちゃんに頼んでくれよ)
(名前ちゃん)
(…なに)
(俺と付き合って)
(やだ)
(付き合ってくれないならストーカーみたいに付き纏う)
(もう止めるって言ったじゃん!)
(うん、だから。これからは彼氏として付き纏う)
(……)
戻る