一番近くで見ていてくれ
▼昔書いてた話がでてきたので再アップ。
拙いのは悪しからず。
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ここは秋田県、山王工業高校。
ただいまバスケ部は体育館で練習中でございます。
こんな暑い中、よくもあんなに汗を掻きながらバスケットが出来るなぁと感心中。
ついでに言えば、それを律義に見学している自分自身にも感心中……とか言ってみる。
「お疲れ様です」
休憩に入ると、ベンチに座っていたマネージャーらしき女の子が選手たちに手際よくタオルと飲み物を渡していく。
ボーっとそれを眺めていると、お目当ての彼も受け取っているのが目に入った。
…デレデレしてる。
イラッと私の心に嫉妬心が生まれる。
こんなことで、そう思うかもしれないけど彼ほどの人が相手だったら誰だって不安にもなる。
馬鹿栄治め…。
「…もう帰ろ」
どんどんギャラリーも増えて来たし、コートが見づらくなってきた。
隣に立つ女の子たちの声援もうるさいし。
これじゃ普通に応援すら出来ないじゃない。
声をかけて帰ろうか、チラリと栄治のいる方を見た瞬間見なきゃよかったと後悔した。
何の為にバスケ部の練習なんて見に来てるんだろう…。
すっごい惨めじゃん、私。
栄治がマネージャーの女の子の頭を撫で、その子は遠巻きにでも分かるくらい頬を赤らめていた。
経緯なんてものは知らないけど、頭撫でるって…意味分かんない。
するとタイミング悪く、栄治と目が合った。
帰ろうとする私に気付いてこちらに歩いてくる栄治。
「名前、帰んの?」
「うん」
「何か、怒ってる?」
「怒ってないよ」
「嘘だ、声がイライラしてる」
「暑いからね、体育館。暑さにバテたっぽい」
暑さゆえのイライラなのか。
いや、大半は先ほど見た光景のせいなんだけど。
帰るね、そう言って背を向けた私の腕を栄治の手が掴まえた。
「じゃあ、何で泣いてんの」
ああ、馬鹿みたい。
ただの嫉妬で泣くなんて。
栄治とあの子は選手とマネージャーだもん。
そんなことにイチイチ口を挟む権利なんて私にはない。
…分かってるのに。
栄治は何かした?と訊いてくる。
何にもしてない、ただの嫉妬。
そう答えるべきなのに今口を開けたら嗚咽が漏れそうだ。
「どうした?名前、」
優しい栄治の声にもっと泣きたくなる。
「人、どんどん多くなってきちゃって、見えなくて」
「うん」
「隣の人とか、うるさくて、」
「うん」
「栄治を応援してる子いっぱいいて、」
「うん」
「そしたら、栄治は栄治で、マネージャーの頭撫でてるし、」
「……」
「なんか、自分で言っててよく分かんない、けど」
すっごい嫌だった、
最後の一言を言おうとする前に、「ゴメンな」と栄治の声が聞こえてくる。
栄治は私の腕を掴んだまま、監督やマネージャーの座るベンチまで引っ張ってきた。
他の選手の人たちが驚いた顔でこちらを見ると同時に私にも訳が分からない。
チラリと栄治の方を見ると、
「監督、コイツここに置いといて下さい」
訳の分らぬことを口にする。
びっくりしてさっきまでの涙も引いてしまっていた。
ここに、ってここベンチじゃん…!
焦る私とは対照的に栄治はそろそろ休憩終わりじゃありません?なんて坊主のゴッツイ人に声をかけてさっさとコートに戻って行こうとする。
…意味分かんないし。
四方八方から聞こえてくる悪口も怖いし。
もう帰りたい、ポツリと視界に映る足
元を見て零れた。
「暑いのはどうしようもねーけどさ、そこならよく見えるし、うるさくないだろ」
「……」
「だから、帰ったりすんな」
「……」
「名前が見ててくんないとやる気で無いんだよ、オレ」
そう言って栄治はポンポンと私の頭を撫でた。
パッと顔を上げれば他の選手の人にからかわれて顔を真っ赤にしている栄治がいた。
(あの子のせいにするなピョン)
(いや、ほんとに。アイツいないとダメなんっすよ)
(だからお前はいつも練習中ダンクばっかしてんのか!?かっこつけんな沢北ァ!)
(いででででっ痛いっすよ河田さんっ!!)
(…また始まったピョン)
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