短編集 | ナノ

進路希望調査書



▼昔書いてた話がでてきたので再アップ。
拙いのは悪しからず。

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んーいい天気。
こんなにいい天気の日には、教室で授業よりも屋上でひなたぼっこに限る。

授業真っ只中の時間帯のおかげで、この屋上には私一人。

雑音も騒音も何一つ聞こえない。
ふわりと舞う九月の風だけが、吹き抜けていく。



「ねむー…」



受験勉強の所為でここ最近、まともに寝ていない。

まだ志望校もはっきり決めたわけじゃないのに、がむしゃらに見えもしない敵と将来の自分の為に勉強しているから思春期の私に一番大事な睡眠が欠如し過ぎている。



「志望校どうしよっかなー…」



進路希望調査、まだ出してないし。
あれ、今日までだったっけな?

特にやりたいことも目指しているものもないしココから近い大学でいっかな、なんて適当にもなる。


フェンスに背中を預けてうとうとしていると、ギィーと擦れる音とともに屋上のドアが開かれた。
閉まりかけていた私の目は入口に向けられる。



「名字か?サボり?」

「あ……三井」

「おう。すっげー眠そうだぞ、顔が」



開いたドアから姿を見せたのは同じクラスの三井だった。

そりゃそうだ、半分寝かけてたし。

せっかくの私の睡眠を邪魔しやがって!と言いたいのを堪えて、倒れかけていた背中を起こして座り直す。
三井は私の隣まで歩いて来て立ったままフェンスに寄りかかる。



「名字って意外にサボってるよな」

「そうかなー。まあ今日は天気いいし。それに悩み事するには持って来いだからね、ココは」

「なんだ悩みなんかあんのか?優しい三井様が聴いてやるよ、言ってみろ」

「何が三井様よ。三井の分際でー」

「うるせぇよ!いいからさっさと言え!」



私が三井の言葉を繰り返すと、改めて恥ずかしくなったのか顔を赤くさせて慌てたように早く言えよと言ってくる。

そんな三井を見てクスクスと笑いが零れる。

つい数か月前までは誰も近付けないくらいのオーラを吐き出して。
こんな風に気軽に話したりしたことなんてなかったのに、何だか不思議な気持ちになる。



「三井は大学決めた?」

「大学?あーまあな」

「バスケ?」

「おう」



不良だった三井をここまで正したバスケットボール。
そんなバスケットボールを彼はこれからも続けて行くんだと淡々と、だけど嬉しそうに話してくれた。



「いいな、やりたいことがあって」

「名字はねぇのか?」

「うん、何もない。だから進路希望の紙も出せなくてどうしようかと思ってたの」



そう言ってブレザーの胸ポケットから白紙のままの進路希望調査用紙を取り出してヒラヒラと隣に立つ三井に見せた。



「確かそれ今日までだろ?」

「そ。だからもう適当に書いちゃっていいかなーって投げやりにもなってたとこ」



親は自分の好きなところに行きなさいって言ってくれたし。

その、好きなところが無いのが問題なんだけどね。



「適当に書くくらいなら海南大って書けよ」

「海南大?何で?」

「近ぇし、あそこだったら学部何でもあんだろ」



確かにうちん家からはそんなに遠くない。
ここら辺の大学の中じゃ学部数もそこそこある。

選択肢の中にはあったけど、特に決め手が無かったから放置してたけど…。



「確かにね」

「それに、バスケも強ぇし」

「バスケ?それは私じゃなくて三井に関係あることでしょー」

「だから、俺そこ行くし」

「へ?」

「俺は海南大行くし。だから名字もそうしろよ」

「え?」

「また来年もこうやって一緒にいれたらよくねぇ?」



三井はニカッと太陽に負けないくらい眩しい笑顔を向けてくる。


言葉がうまく出てこない。
だけどものすっごいドキドキしてるあたしの心臓の音。



「一緒の大学行こうぜ」

「…海南大には安西先生はいないよ」

「知ってる。だから代わりに名字がいろよ」

「私は安西先生の代わりですかー?」

「代わりじゃねぇよ。っつーか、代わりにもなんねぇ」



ちょっと何それ?
サラッとすっごい酷いこと言ってない?



「でも、何でだろうな。お前とは一緒にいてぇんだよ」

「……」

「大学もその先も、ずっと」

「何それ……告白?」

「おう。だから海南大って書けよ」



その日の放課後、真っ白だった進路希望調査用紙には海南大と書かれていた。


……三井の文字で。



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