ビーティング・キング | ナノ
▼ 誰かに盗られちゃう前に
次の日の学校は行きたいような、行きたくないような、複雑な気持ちで迎えた。

昨日はいっぱい話せて、
バスケも見れて、
しかも送ってもらっちゃって、
この上ない位の幸せな時間を過ごせたというのに。

帰り際のセリフとバタンッと思いっきりドア閉めちゃったことが、今更とはわかっていても私を悩ませてくる。

今更足掻いても昨日のことはしょうがない。
消えるわけじゃないし、昨日自体は幸せな思い出が詰まっているから忘れたくない。

……けど!
牧くんに変に思われてなかったかな……
これで嫌われちゃったらこの先の人生やっていける気がしないよ、もう……

これで何回目のため息だろう。
次で100回目くらいかな、なんて呑気なことを考えながら廊下を歩いていたら、



「おはよう」

「ま、ま、ま、っ」

「ん?」

「ま、ま、牧くん!」

「クックッ、どもり過ぎだ」

「ご、ごめん……突然だったから、その、驚いちゃって……」

「俺が話しかける度に苗字は驚いてるな」



そりゃそうでしょうよ!
好きな人に話しかけられたら誰だってそうなるよ!
嬉しいのに素直に反応できないのが女の子の醍醐味……ってのは都合良過ぎか。

……あれ?
昨日のこと、何にも言ってこない……?
もしかして全然気にしてない感じ?

その後すぐに先生が教室に入ってきちゃったせいでせっかくの朝からの牧くんとの貴重な時間はすぐに没収されてしまった。
まあ、話せただけいいか!
授業中も相変わらず窓際の前から2番目の席に座る牧くんを眺めるのが私の趣味だ。

今日もこんがり焼けた肌が素敵。
それでもって居眠りやらお喋りやらしているクラスメイトがいる中、真面目に授業のノートを取っているところとか。

……やっぱりかっこいい。
牧くん……かっこいいな。


でも、夢現な世界はそう長くは続かない。



「牧くんのことがずっと前から好きでした」

「……」

「よかったら付き合ってください!」

「……」



昼下がりの裏庭にて。
真っ赤に頬を染める可愛らしい女の子と……私の好きな人。
どうやら告白シーンに遭遇してしまったらしい。
し、か、も、牧くんの。
何が嬉しくて自分の好きな人が他の女の子に告白されているシーンを見なくちゃいけないのか。
踵を返して戻ろうとしたところで、思わぬ言葉が耳に入った。



「すまないが君と付き合うことはできない」

「それはバスケが大変だからですか?」

「……いや、」

「……」

「好きな人がいるんだ」



一番聞きたくないセリフが聞こえてきた瞬間、私は無意識のうちに走り出していた。
どこに向かっているかなんてわからない。
どこでもいいからその場から離れたかった。

聞きたくない!!!
聞きたくなかったよ……牧くんに……牧くんに好きな子がいるなんて……!!!


ドンッ



「……苗字先輩??」



誰かにぶつかった拍子に腕を掴まれた。
驚いて顔を上げた先にいたのは、



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