ビーティング・キング | ナノ
▼ 私の好きな人
私の好きな人はいろんな意味で有名だ。

まず、頭が良い。
校内テストは愚か、全国模試なんかでも上位に名前を連ねている。
女子が『勉強教えてもらいたーい』って言ってるのを聞いたことがある。

あと、顔もかっこいい。
ちょっと老け……じゃなくて大人顏で男の人の雰囲気を醸し出している。
とても高3とは思えない外見だ。

性格も良い。
優しい紳士、って単語が彼以上に似合う人って早々いない。
男女に分け隔てなく接する彼を嫌いな人なんていないはず。

それから、サーフィンが上手い。
サーフィン焼けのせいで肌は真っ黒。

最後は何と言っても、バスケが上手い。
17年連続インターハイ出場を果たしている海南大付属高校のバスケットボール部主将。
しかも先輩を差し置いて1年の時からずっとレギュラー。


……なんで知ってるかって?

そんなの答えは簡単。
だって彼は、私の好きな人だから。
1年の時に同じクラスになった時からずっと、私の好きな人。


牧 紳一。

完璧な彼のことを海南大で知らない者はいない。
それに、高校バスケットボール界でも知らない人はいないって前に誰かが言ってた。


そんな彼が私のことを好きになってくれるなんてこれっぽっちも期待はしてない。
そもそも用事があったら話す程度で特別仲が良いわけでもない。
だから、このままでいい。
このままの変わらない距離のままで別にいい。
一番後ろの席から、窓際の前から二番目に座る彼を眺めているだけで十分だった。

それなのに……ピンチとチャンスは突然やってくる。



「苗字、教えてほしいことがあるんだが今いいか?」



日直係の私が黒板をせっせと消していた時。
牧くんは何の前触れもなく、突然名前を呼んで、突然話しかけてきた。

う、う、うそ……
牧くんに話しかけられてる……!?



「わ、わ、わた、し?」

「クックッ、驚き過ぎだ」



は、恥ずかしい……思わず声が裏返っちゃった。
その上笑われちゃってるし……今日はツイてない!

一気に肩を落とす私を見て牧くんは慌てて謝ってきたけど、こっちが申し訳なくなって更に落ち込んじゃう。



「お、教えてほしいことって……?」

「英語の課題で分からない箇所があるんだ。苗字、得意だろ?」

「でも、牧くんに分からない問題はさすがに……」

「そんなに謙遜するなよ。前回のテストで英語1位だったじゃないか」

「……知ってたんだ」

「そりゃ知ってるさ」



黒板消しを置いて、教卓の上に開かれた教科書に視線を落とす。
覗き込む私に釣られて牧くんまで覗いてくるもんだから、距離が近い。

この体制じゃ心臓がもたないよ……!

顔を上げたらきっと牧くんの顔がそこにある。
……ダメダメダメ!
そんなの絶対無理!



「――」

「……」

「苗字!」

「……え?」

「どうしたんだ、突然頭を振り出したりして」

「えっと……なんでも、ない、です」

「何で敬語?」

「あはは……」



やっぱり無理だよ!
話すだけでもこんなにドキドキするのに。
今までこんなに近い距離で話したことなんてないのに!

ハードルが高すぎる……!
すごいチャンスだけど、大ピンチ。
きっとすっごく不審がられてるに違いないもん……はあ。



「悪い、迷惑だったか?」

「迷惑だなんてそんなことあるわけないよ!」

「でも様子が変だから」

「それ、は……その、」

「ん?」

「突然話しかけられたから……ビックリしちゃって」

「驚かせてすまない」

「えっと、そういうことじゃなくて……嬉しビックリ?」



嬉しいし、恥ずかしいし、びっくりだし。
でも、すっごい嬉しい。
……要するに嬉しさいっぱいなの、とっても。 prev / next

[ back to top ]


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -