ビーティング・キング | ナノ
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「……ダメだよ、こんなことしたら」

「嫌か……?」

「そうじゃなくて……好きな子、いるんだから……」

「なぜそれを?」

「前に告白されてる時に断ってたのを聞いたことがあって、それで……」



さすがに盗み聞きしてました、とは言いたくない。
不可抗力だったのは、本当だしね。



「神が言ってたのは……それか」

「……神くん?」

「苗字、アイツの前でも泣いただろ」

「……一回だけ」



……牧くんに失恋した時にね。
話を聞いてもらった時に思わず泣いたことがあったっけ。

牧くんはなぜかはぁっと呆れたようなため息をつく。



「あんまり他の男の前で泣くな」

「……」

「そんなんだからバスケ部の奴らがどんどん苗字を好きになっていくんだ」

「……そんなこと、」

「ある」

「……」

「俺がどんな気持ちで見ていたか分からないだろうな」

「……」

「好きな子に『話しかけるな』と公衆の面前で振られた上に他の奴らの前では笑ったり泣いたりしているその子を見ていた俺の気持ちが」



牧くんはギュウギュウとこれ以上ないくらいに抱きしめた。
苦しいよって言いたいのに言えないのは、今の彼の言葉の心理を解く方が先だからで。

でも……今の……



「牧くん、それ、」

「苗字」

「は……はい……」

「頼むから他の男の前では泣かないでくれ」

「……」

「男は女の涙に弱いんだ」

「……」

「苗字みたいなのに泣かれたら、誰だって好きになっちまう」

「……」

「泣くなら……俺の前だけにしてくれ」



俺の前だけって……
そんなこと言われたら私、期待しちゃうよ?
……単純だから。 prev / next

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