ビーティング・キング | ナノ
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最後に話してから数ヶ月が経っていた。
前だったらこんなくらい当たり前だったのに。
いつから欲張りになっていたんだろう、私は。
答えはきっと、一緒に勉強をしたあの日からだ。
あの日から私はもっと牧くんを好きになって、もっとこの恋に対して臆病になったんだ。

……やだな、泣きたくないのに。
絶対泣きたくないっ。

ギュッと下唇を噛んで、泣くのを我慢する。



「……ありがと」



差し出された用紙を受け取ろうとすると、牧くんはなぜか用紙を離そうとはしない。



「なぜ泣く……?」

「……」

「そんなに、」

「……」

「泣くほど、俺と話すのが嫌か……?」



牧くんの顔が辛そうに歪む。
涙で歪んだ視界でも、彼の表情は鮮明に映った。

牧くんと話すのが嫌……?
違うよ。
逆だよ。
嬉しいから泣いてるんだよ……!


言葉にならずに小さく首を横に振るのが精一杯だった。



「じゃあ、誰かに何かされたのか?」

「……」

「また女子達にやられたのか?」

「な、んで……」

「前に武藤と高砂が教えてくれたんだ。でもその時は俺が関わると苗字に火の粉が行くだけだからやめろ、と……」



前に屋上であった時のこと、牧くんは知ってたんだ。
言わないでねって二人には頼んでおいたはずなのにな。



「今度こそ俺が――」

「ち、ちがうから!」

「……本当か?」

「うん……」

「じゃあ何で泣いてるんだ?」

「……」

「頼む、教えてくれ」

「……」

「苗字が泣いてる姿を見るのは俺が辛いんだ……」



……牧くんまで。
牧くんまで泣きそうな顔しないでよ。
そんな顔されたら私も泣いちゃうよ……?


次の瞬間、一回り以上大きな牧くんの身体が私をスッポリと抱きしめた。



「ま、まきくん……っ」

「……」

「な、なにしてるの?」

「……」

「……離してっ」



押し返してみてもビクともしない巨体。
でも、私を抱きしめる腕が……かすかに震えている気がした。
それを隠すように抱きしめる力はどんどん強くなっていった。

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