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アヤコちゃんは私のいるそばまでくるとニッコリ笑う。彼女なりの気遣いなのかもしれないけど……バレないようにこっそり来ていた身の私には飛んだ迷惑だ。
アヤコちゃんが叫んだせいで湘北の選手までこっち見てるし!
「まーた負けちゃいましたよぉ!」
「あはは……」
「さすがですねぇ!でもウチもインターハイまでにもっと練習して海南を倒せるくらい強くなりますから!」
「う、うん……がんばって!」
「ところで名前さん、下降りてきたらどうですぅ?」
ニヤニヤしながら何か企んだ様子でいると思ったら……そういうことか。
私と牧くんが話すチャンスを作ろうとしてくれてるんだ。
「せ、せ、せ、苗字せんぱーい!!!」
「清田くん……?」
「試合見に来てくれてたんすね!感動っす!」
「う、うん」
「この天才清田信長のプレーを見てくれましたか!!!」
「あ……うん」
チラリとコート上にいる牧くんを見ると故意にふいっと視線を逸らされた。
「清田、早く荷物を持って控え室に行くぞ」
「ちぇっ、じゃあ苗字先輩また〜!」
牧くん、目合ったのに何にも言ってくれなかったな。
別に話せることを期待して来たわけじゃないけど。
……無視って結構堪えるなぁ。
「アヤコちゃん、試合楽しかったよ」
「名前さん……」
「マネージャー職がんばってね!」
「あの、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
大丈夫。
これで吹っ切れた。
牧くん、最後に牧くんのプレー見れてよかったよ。
……ありがとう。
――海南大ロッカールーム。
「じ、神さん……っ!」
「どうしたんだ?ノブ」
「なんか牧さんがすっごい怒ってるみたいなんすけど!」
「あー……」
「俺、なんかしました!?さっきからすげー怖いんっすよ……」
「俺がどうした、清田」
「ま、牧さん……っ!」
「なんだ」
「あ……いや……」
「……ノブは牧さんが怒ってる理由がわからないみたいですよ」
「……」
「……俺、なんか悪いことしましたか?」
「……」
「ま、牧さん、あの」
「……苗字」
「……苗字先輩?」
「アイツにあまり気安くするな」
彼は一言だけ呟いてロッカールームを後にした。 prev / next