▼ すれ違い
昨日の私の予感は的中した。学校に行くなり、同じクラスと別のクラスの女子に呼び出された。
呼び出されたっていうか、教室に向かう手前で取り囲まれて屋上に連れて行かれてるって言った方が正しい。
なんとなく、こうなるかも……とは思ってたから驚きはしない。
「アンタ、何様?」
「……」
「牧くんに話しかけるなって言ったらしいけど、どの面さげて言ってんの?」
「……」
「いつも一人でいるアンタを可哀想に思って話しかけてくれた牧くんにたいしてなんて失礼なのかしら!」
今目の前で怒り狂ってるのが誰か、なんてことはどうでもいい。
持っていたカバンを取られて投げつけられたって、痛いけど……大丈夫。
肩を押されて尻餅ついちゃったって、泣かない。
我慢する……
だって、私が牧くんに『話しかけないで』なんて生意気なこと言ったら彼のことを好きな他の女の子が黙ってるわけないもん。
教室であんなこと言ったからいけないんだ。
「調子に乗らないでよ!」
「……イタ、ッ」
「自分から話しかけないでって言ったんだから、金輪際二度と牧くんに関わるなよ!」
「……」
「聞いてんのかよっ!」
「……」
蹴られた膝小僧から血が滲む。
さっき尻餅ついた時に擦りむいたところを、上からやられたんだろう。
はぁ……痛い。
もうやだよ……
今までは見てるだけでよかったのに。
たった一日人気者の牧くんに関わっただけで、こんな風にイジメられなきゃいけないんだ。
「うわっ、この女泣いてるし」
「ほんとだ。だっさー」
「牧くんに失礼な態度取るから悪いのよ。ざまーみろ!」
満足したのか、それともチャイムのおかげか――女の子達は屋上をでて行く。
一人残された屋上で、視界がどんどんと歪んでく。
ポタポタと零れる滴が血の滲んだ膝小僧に落ちた。
「うー……」
悔しい。
悔しい!
やられっぱなしで何も言い返せなかった。
何よりも自分が選んだくせに牧くんとこの先関われない人生が……悲し過ぎて涙が止まらない。
昨日から泣き過ぎだな、私。
牧くんのことになるとすぐ泣いちゃうや。
これが恋。
……でも、忘れなきゃ……牧くんのことは。
その時、ギィッと鈍い音がした後、屋上のドアから誰かが入ってくる。
「……苗字?」
制服の袖でゴシゴシと目元を拭った。
名前を呼ばれた方を振り向くとそこには、
「武藤くん、に高砂くん……?」
「ど、どうした?なんで泣いてるんだ!?」
「……うー……っ」
また涙出てきちゃった。
もう止まらないよ。
なんでこんなに牧くんのこと考えると……涙が出てきちゃうんだろう。
「おい、苗字……!」
「これ以上泣かすな、武藤」
「俺のせいかよ!っつーか、まじで泣かないでくれ……!」
「牧のこと呼ぶか?」
「……やめて!」
「でも、」
「ちょっと転けて痛かっただけだから……」
今顔見たら泣き止む自信ないもん。
二人は授業をサボりに屋上へやってきたみたいだけど、私の状態を見てそれどころじゃなくなった。
アタフタと焦っているみたいで、飛んだ災難に巻き込んでごめんね、と心の中で謝っておく。
「ただ転けただけで、あんなところまでカバンが飛ぶのか?」
「……」
「しかも中身も散らばってグチャグチャだぞ?」
「……」 prev / next