ビーティング・キング | ナノ
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教室に戻って自分の席へと直行する。
チラリと視界の端に友達と談笑している牧くんの姿が見えたけど見えないふりをした。

……なのに、



「昨日教えてもらった問題当たってたぞ。助かった」

「……」

「それにしても苗字が授業をサボるなんて珍しいな」



……なんでくるの?
なんでそんな風に笑いながら話しかけてくるの?
昨日までの私達なら教室内で気軽に話したりするような仲じゃなかったじゃない。

……こんなの八つ当たりだってわかってる。
勝手に好きになって、勝手に失恋したくせに、自分勝手も甚だしいって重々承知してる。
……でも……、どんな顔して会話すればいいの?
私……どんな風に牧くんと話してたっけ?

もうなんにもわかんない。
覚えてないや。
恋の力って……すっごいなぁ。
こんな一瞬で私を無にしちゃうんだもん。

泣いた痕がバレないように必死で冷静を保ったまま顔を上げた。



「……私に、話しかけないで」



だってね、牧くんと話してるとみんなが見てくるんだもん。
なんで”苗字が牧と話してるんだ”って不思議がってる。
そりゃそうだよね。
私と牧くんみたいな人、友達としてすら不釣り合いなんだから。



「……なぜだ?」

「元々……こんな風に話す仲じゃなかったし。英語も……わかんないことがあったら先生に聞いたらいいじゃない」

「……」

「だからこれ以上、」

「……」

「……私に、話しかけないで……下さい」



昨日話しかけてくれて嬉しかった。
一瞬でも友達になったみたいで幸せだったよ。

……でもね。
きっとそれを続けていたら私は牧くんのことをこの先もずっと好きなままだと思うから。
毎日毎日少しずつ、もっと牧くんを好きになっちゃうと思うから。
それじゃダメでしょう?

牧くんには好きな子がいて。
その恋を応援してあげたい。
他の誰かに盗られちゃう前に――なんて、そんな汚い考え持ちたくない。

……だから、もうこれ以上一緒にいたくない。
これ以上一緒にいたら……辛いだけだもん。



「あの言葉は……嘘だったのか?」

「……」

「俺と話せて嬉しかった、って言ったあの言葉は嘘だったのか?」



牧くん……

……嘘じゃないよ。
私の牧くんに対する気持ちに何一つ嘘はない。
ただちょっと……私の強さが足りないだけ。
失恋しても尚、牧くんのことを好きで居続ける自信と強さが私にはなかったの。

だから……そんな顔しないで。
私が全部悪くて、牧くんは何にも悪くないんだから。



「苗字……」

「……」

「答えては、くれないんだな」



そう呟いた牧くんは背中を向けて友達の輪の中に戻って行った。


泣かない!
泣くな、名前!
涙を堪えて机に突っ伏した。

……明日からの学校はいろんな意味で大変だろうな。 prev / next

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