ビーティング・キング | ナノ
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ジャージから制服に着替えた牧くんと校門の前で待ち合わせをして一緒に帰る。
家の方向を説明しながら隣を歩いている私の心臓は破裂寸前だ。

緊張しすぎておかしくなりそう!
何話せばいいの!?

考えれば考えるほどパニックになる私とは反対に冷静沈着な牧くんは当たり前だけど、いつも通りだ。
いつも通りっていいつつ牧くんの”いつも”が、どんなものなのかは知らないけど。
でも私みたいに恋心一つで取り乱したりすることはないんだろうな。

そもそも牧くんって恋したことあるのかな?
好きな子ができたり、彼女がいたり。
っていうか今現在、彼女いたりして!?

考えれば考えるほど、牧くんのことを何も知らない自分に気付かされる。
もっと知りたいな、なんて……欲張りすぎだ。



「どうした?」

「え?」

「いや、全然喋らないから」

「ご、ごめん……」

「謝ることじゃないさ。……俺といるのはつまらないか?」

「……え?」

「なんでもない」



つまらないなんてことあるわけない。
こんなにドキドキして嬉しいのに。
肝心な時に限って言葉ってのは口からは出てきてくれない役立たずなものだ。


無言のまま歩いていると、あっという間に家に着いてしまう。
20分の帰路で話した会話はたったそれだけ。

私のバカ!
せっかく牧くんが送ってくれたのに!
一緒に帰れたのに気を遣わせちゃうなんて……最悪。
ばかばかばか!



「苗字」

「は、はい」

「今日は俺が部活終わるまで待っていてくれてありがとう」

「……」

「じゃあ、また明日学校で」



おやすみ、そう言って来た道を戻ろうとする牧くん。
わざわざ反対方向なのに送ってくれたんだ……
部活で疲れているはずなのに……



「ま、牧くん……!」



咄嗟に呼び止めた背中がこちらを振り返る。



「……あ、の、」

「ん?」

「緊張して上手く話せなかっただけなの……」

「……」

「……牧くんといるとドキドキしちゃって上手く話せないの」

「……」

「不愉快にさせちゃったらごめんなさい!でも、」

「……」

「つまらないなんてこと、絶対あるわけないから!」

「……」

「お、送ってくれて……ありがとう」



それだけ一気に言い切って家の中へと駆け込んだ。



「……不意打ちすぎだろ」



そんな彼の呟きが私の耳に届くことはなかった。 prev / next

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