ビーティング・キング | ナノ
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「それで話しを戻すんだが、」



小さく咳払いをして、そう切り出した牧くん。
私も再び教科書に視線を落とす。
今の会話のおかげで少しだけ緊張が解れたから、さっきよりはアタフタしないで済みそう。

えっと……どれどれ。
問3、は……



「これは、wouldを使った仮定法……だと思う」

「じゃあ、こうか?」

「う、うん、多分……」

「I wish I would be your only one」

「……」

「『君が俺だけのものになればいいのに』」

「……」

「……で、当ってるか?」

「『私が貴方のものになれたらいいのにな』」

「……」

「……かな、砕けた訳し方すると」

「……」

「牧くん?」

「悪い、つい……」

「大丈夫?」

「ああ、続けてくれ」

「えっと、次のも同じルールで――」



テスト前ってわけでもないのに、宿題のために私達は放課後を英語に費やした。
全体的な成績は比べものにならないくらい彼の方が良いのに……変なの。
私が英語を教えているっていうのがとても不思議で、だけど新鮮だったと同時にすごく楽しかった。

ちゃんと話したのって今日が初めてなのにね。
大ピンチだったのに……チャンスをものにしたって思っていいのかな……?

二人だけの勉強会(?)が終わるまでの間、緩む頬を抑えるのに必死だった。

幸せだなぁ。
牧くんと話せた上に一緒に勉強もできて。
しかも二人っきりだもん!
授業中に彼を眺めているだけで十分だったのに、神様からのこのサプライズには感謝してもし尽くせないっ!



「――って感じかな」

「なるほど。苗字の説明は理解しやすかいから助かった」

「役に立ったなら良かった、です」



牧くんは開いてる教科書をパタンと閉めた。

これから部活に行くらしい。
もう部活の時間も残り少ないというのに偉いと言ったら当たり前だと一蹴されてしまった。
こういう地道な積み重ねがバスケ部の強さの秘訣なんだろうな、なんて牧くんが荷物をまとめている姿を眺めながらぼんやりと思う。



「なあ、苗字。もう1時間くらい、時間あるか?」

「……え?」

「部活が終わったら送っていく」

「そ、そんな……悪いからいいよ、大丈夫!」

「勉強のお礼だ。っていっても、1時間待たせてしまうことになるが……」

「……」

「まあ、無理にとは言わない」

「……」

「……苗字さえよければ」

「えっと……ほんとに、いいの……?」

「ああ」

「じゃ、じゃあ……お、お言葉に甘えて待ってます……」



うそ!?
牧くんと一緒に帰れる!?
しかも家まで送ってくれるって……!

きっと私、今日1日でほぼ全部の運を使い切っちゃったんだろうな。
でもまあ、嬉しいからいいや! prev / next

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