ビーティング・キング | ナノ
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言った瞬間、やってしまったと後悔したのは言うまでもない。
だって牧くんの顔がビックリして見開かれたから。
は?って、今にも声に出そうな顔してるんだもん。

私のバカ!



「嬉しビックリ、か」

「ご、ごめん……変だよね、ただ牧くんと話せただけなのに嬉しいなんて」

「……俺?」

「……え?」

「嬉しいってのは、俺と話せて嬉しいってことだったのか?」

「あ、っと……うん、と……うん」



顔から火が出そう!
なにこれ!
何の罰ゲーム!?
ムードがまるっきり告白みたいになってるよ、もうっ。



「確かに苗字と話すことってあんまりないよな」

「そうだね。牧くんはいつも部活で忙しそうだし……」

「そんなこと言ったら苗字だって勉強したり本読んだり、いつも忙しそうだぞ」

「それは、なんていうか、」

「ん?」

「私は……牧くんみたいに友達いっぱいいるわけじゃないから」



クラスメイトにいつも囲まれている牧くんといつも一人でいる私。
バスケ部で楽しそうにしている牧くんと帰宅部の私。
何かやってないと、寂しくなっちゃうかもしれないから。

牧くんと私って正反対。
比べること自体が烏滸がましいとさえ思ってしまうくらい、違う。



「2種類の人間がいるんだ」



またしても突然、哲学らしいセリフを語り出す牧くん。



「人の輪の中で好かれる人間と一線引かれたところで憧憬の眼差しを向けられる人間」

「……」

「苗字は後者だろうな」

「……そんなのありえないよ」

「なんでそう言い切れる?」

「だって私、人に憧がれてもらう要素ないもん。凡人だから」

「クックッ、凡人って」

「超人の牧くんとは違うよ」

「俺だって普通の人間だぞ?」

「でも、頭も良いし、優しいし、バスケも上手いし、みんなが憧れる要素を全部持ってるもん」



この学校に入学して早3年。
牧くんの悪口なんて耳にしたことがない。
それどころか『何年何組の誰々さんが牧くんのこと好きなんだって〜』っていう好意の噂話ばっかりを耳にするくらいだ。

牧くんはみんなの憧れでみんなの好きな人。
それでもって、私の好きな人なんだけどね。



「俺だって持ってないものくらいあるさ」

「例えば?」

「んー……」

「……ほら、やっぱりない」

「今はまだ内緒にしておく」

「『今は?』」

「ああ」

「……牧くんって面白い人、だね」

「苗字もな」



ああ、そんなにキラキラした笑顔向けられたらキュンキュンしちゃうよ。
ドキドキして心臓もうるさい。
なんてかっこいいんだろう。
モテるに決まってるよ、こんな素敵な人。

話さなくても好き。
話したらもっと好き。
もうこれって取り返しのつかない、恋の病? prev / next

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