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「また振られたの?」



ざわざわと木々が穏やかな音を鳴らすお昼休み。
グラウンドや廊下にはたくさんの生徒が出ているというのに、視線の先の彼の背中は小さく丸まっている。
その背中は今日“も”寂しげで声をかけずにはいられない。

中庭のベンチにポツンと座っている彼は明らかに浮いていた。



「……笑いたきゃ笑ってもいいっすよ」



半分だけ顔を振り向かせ、私の姿を確認すると再び顔を背ける。
大きく足を広げ、そこに肘をつく。
どんよりと曇った表情のまま彼は地面を見つめていた。



「そろそろ忘れろよって、」

「笑わない」

「いい加減諦めろって、」

「笑わない」

「……これで13回目でも?」

「笑わないよ」



彼は小さくため息を吐いて、今度は空を仰ぐ。
ゆっくりとベンチに近づくと少し横にずれて私の座るスペースを作ってくれる。
言葉はないけれど座ってもいいよ、という合図。
……だと、私はいつも勝手に解釈している。
まあ何にも言ってこないし、そういうことだと都合よく解釈しておこう。



「苗字先輩って優しいよね」

「普通じゃない?」

「三井先輩だったら『ザマーミロ』とか言ってすっげー笑ってくんのに」

「三井は性格悪いからね」

「それに比べて先輩は神」

「大げさだなぁ」

「彩ちゃんじゃなくて苗字先輩みたいな人を好きになれればいいのになーって思うよ」



好きに“なれれば”。
彼の言葉は仮定法だ。
現実としてはあり得ないことで、もしもできたら〜って架空のセリフを残していく。
現実に起こりえないことを指し示す残酷な発言でもあった。

――だってそれは、彼が“彩ちゃん”ではなく“私”を好きになる可能性が限りなくゼロに近いことを示しているから。



「クラスも同じで部活も同じなんだから振り向かせるチャンスはいくらでもあるでしょう」



強がり、ってこういうことなんだなって思う。
気持ちとは裏腹な言葉を吐き出すんだ、無理やり。
そうでもしないと、本音が出てしまいそうだから。
そうでもしないと……彼のことが『好き』だという気持ちが溢れてしまいそうになるから。



――ねぇ、宮城くん。

私、本当は君が好きなんだよ。
“彩ちゃん”を一途に想い続ける君を好きになったの。
いつかその一途な瞳に私が映れたら――そんな欲張りな感情が心の奥底には存在しているんだよ。

でも今はまだ……気付かないでね。
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