Secret Kiss | ナノ
▼ 一方通行
「練習中?」

「まあ、」

「もう暗くなってきたのに偉いね」

「……先輩は?」

「私?」

「こんな時間にどうしたんっすか」

「私はおつかい」



片手にぶら下がっているビニール袋の中から覗く醤油。
先輩は苦笑いを浮かべて眉毛を下げた。



「家、ここら辺なんっすか?」

「そうだよ、すぐそこ」

「へー、知らなかった」

「私はね、実は……知ってたよ」

「……」

「この公園からたまにバスケットボールの音が聞こえてきたから気になってこっそり見に来たことがあって」

「……」

「だから今日も、もしかしたら……っていうか、多分沢北くんだろうなって予想してたの」



そしたら当たった、と。
彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべていて。

きっとこの笑顔はなにも意味しない。
このセリフだって、彼女はなにも意図してない。
そうわかっているのに心臓の鼓動が抑えられないんだから困ったもんだ。



「苗字先輩、」

「んー?」

「なんで松本さんと付き合おうと思ったんですか?」



止めていた手で、再びボールをつき始めた。



「……なんでだろ?」

「きっかけとかないんすか?」

「うーん、」

「……」

「好きだったから、としか答えようがないなあ」



『好き』

そのかわいい声で言われてみたい。
最高の愛を囁かれてみたい。
独り占める権利が得られるなら、俺だって伝えたいのに。



「沢北くんは?」

「いないっすよ」

「そうなの?好きな子とかは?」



あなたですよ、名前さん。
……なんてな。

ばっかでぃ。


フリースローラインから放ったボールが静かにリングに吸い込まれていった。 prev / next

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