Secret Kiss | ナノ
▼ 叶うはずもない片想い
クリッとした瞳で見つめられて。
いまにも折れてしまいそうな細い腕からタオルと飲み物を受け取って。
『お疲れ様』と癒しの言葉を浴びて。
自分だけに向けられている特別な笑顔を独占できる。

……そんな松本さんが、羨ましい。



「県予選に向けて準備バッチリ?」

「まあまあだな」

「とか言っちゃって絶好調だったくせに」

「名前が見に来てくれてるからかもな」

「ふふ。私が来て稔のプレーが良くなるなら毎日来ようっと」

「ああ、そうしてくれ」



松本さんがポンポンっと頭を撫でるとほんのり頬を赤める名前さん。
愛らしい、って単語がよく似合う。
誰が見てもお似合いのカップルだ。

これで松本さんの顔がめちゃくちゃブサイクだ、とか。
性格がめちゃくちゃ悪い、とか。
最悪な欠点でもあればいいのに、よりにもよってこの人はバスケ部で一番優しくて良い先輩。
そんな松本さんを俺が見下すなんてとんでもない。

学校一の美女と、申し分のない美男。
誰も間になんか入れまい。



「沢北」

「はい」

「さっきのジャンプシュートおしかったな」

「……」

「ただ次はもう半テンポくらい置いてから飛んでみろ。焦った時のお前は特にせっかちになりやすいから」

「……はい」



体育館から撤収する前にさりげなくアドバイスをくれる松本さん。
なにに対してかわからない申し訳なく思う気落ちがじわじわと湧いてくる。



「……松本さん、」

「ん?」

「名前さん――」



俺、名前さんのこと好きなんです――そう言えたらどれだけ楽だろう。
言えたところで叶わないことなんて百も承知だ。



「名前がどうした?」

「……いや、」

「なんだよ、言いかけたら気になるだろ?」

「名前さんが、呼んでます」



入り口に寄りかかってこちらを見つめる彼女の視線は当たり前だけど、俺には向かない。
いつも隣にいる松本さんにだけ向けられる熱い視線。

羨ましくて、腑が煮えくり返りそうな気分だった。




今日も片想い。
松本さんの彼女に恋をする俺の片想い。

誰にも知られることはない。
そしてきっと、一生叶うことのない永遠の恋なんだろう。 prev / next

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