▼ それでもそばに
その日、私たちは何度も何度もイき果てた。これでもかってくらい、これ以上ないってくらい、お互いを激しく求めた。
私の主導権が許されたのは最初のたった一回のみで、そのあとはいつの間にか逆転していたんだから笑ってしまう。
そして、ベッドの上に横たわったのは外が明るくなった頃だった。
息を整えるために横たわっているとそれまでおとなしくしていた栄治が突然ムクリと立ち上がり、
「……帰る」
それだけ言って衣服を身にまとい始めた。
「……もう帰るの?ゆっくりしていけばいいのに」
「時間がなくてさ、」
「時間?」
「ん」
「……栄治?」
キュッとズボンを掴むと、栄治の身体がピクッと反応する。
観念したように振り返った彼の顔を見て、びっくりした。
だって栄治……なんで?
……なんで泣いてるの――?
「……あーあ、我慢してたんだけど、」
「……栄治?」
「やっぱ、……むりだっだ」
「……」
「栄治、って……名前さんに名前呼ばれたら、……抑えられなかった」
子供のように泣きじゃくる栄治を私はそっと抱き締めた。
この青年に日本一の高校バスケットプレーヤー、なんて面影は微塵もない。
ただ別れに悲しむ、一人の高校男子。
そして私も……ただの一別れに泣きじゃくる、変な女に違いない。
――ひとしきり一緒に涙を流した後、栄治は突然言った。
「名前さんが好きだよ。誰よりも愛してる」
「……私も」
返事が予想外だったのか一瞬目を見開いた後、彼の表情が嬉しそうに笑った。
再び立ち上がる直前に触れるだけのキスを落とし――
「……ありがとう」
たった一言呟いて、部屋を出ていった。
それからしばらく呆然としたままでいると、テツさん――栄治のお父さんから電話がかかってきた。
栄治を乗せたアメリカ行きの飛行機が無事に成田空港を出発したと連絡をもらったのだ。
……栄治、それでも私はそばにいたかったよ。
栄治はそれでも私にそばにいてほしかった……?
さよならという以外の選択肢があったのなら、それでもそばに――…… prev / next