▼ 昔話
カチャカチャとナイフとフォークがぶつかり合う音がする。クラシックな音楽と落ち着いたレストランの雰囲気は前回来た時とはまるで変わらない。
背筋が自然にピンッと伸びる感じ。
二回目は最初より緊張しないって言うけど……私の場合、そんなことはない。
右に牧部長。
左に沢北さん。
そんな二人を両隣にテーブルには私を含めた三人だけ。
この状況で緊張しない人なんている?
どんなに図太い神経の人でもさすがに縮こまっちゃうと思うんだけどな……!
なんたって、現日本一と元帝王なんだから!
「口に合わなかったか?」
チラリと元帝王……いやいや、牧部長を盗み見たつもりがバッチリと目が合ってしまう。
「い、いえ、そんなことないです。美味しいです、とっても」
「無理しなくていいんだぞ」
「本当に美味しいです!ただ、ちょっと、」
「ん?」
「どうも落ち着かないといいますか……」
「そういえば前に来た時も苗字はソワソワしていたな」
思い出したように笑みをこぼし始める牧部長。
恥ずかしくなってカッと顔に熱が上ったのを感じた。
そもそもこんなに敷居の高いホテルのレストランなんて来ることないし!
それに……前回はいろんなことがあったもんなぁ。
仙道くんが突然女の人と現れたり、牧部長に告白されたり。
その挙句に何もなかったとはいえ、上司と部下一室で一緒に朝を迎えてしまうんだからそれはもう……ね!
告白の返事だって猶予をもらったとはいえ、一週間以上も放置……というか、何もしてない。
答えが出ていないといえばそれまでなんだけど。
何も言ってこないのが彼の優しさだと分かるからこそ申し訳なくなってしまう。
「前にもここでデートしたんですか?」
「デ、デートだなんてそんな!滅相もない!ただお食事を……」
「クックッ、そんなに全否定されるとさすがに俺も落ち込むぞ」
「そういうつもりじゃなくてですね……」
「もしかして……二人って、その時に大人の階段上っちゃったり?」
「ま、ま、まさか!そんなこと絶対あるわけないじゃないですか!」
「クックッ、事実だが過剰に全否定し過ぎだ」
「だ、だって、沢北さんが変なことを……」
「昔からこういう奴なんだ。言わせておけ」
牧部長は沢北さんを一蹴して再び食事を進めた。
相変わらずワイングラスを傾ける仕草がよく似合う。
仕事の時とはまた違った大人の一面にドキッと胸が鳴ったのは気のせいではないのかもしれない。
「ひどい言われ様ですね」
「本当のことだろう」
「牧さんも大概昔と変わってないですよ」
「それはどういう意味だ?」
「貫禄とか……女性の趣味、とか?」
一瞬ピリリとした空気が流れた。
思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。
なんだろう、この空気は……
っていうか沢北さん、なんで急にケンカ腰……!?
ヒヤヒヤしながら二人を交互に見上げると、牧部長の瞳が私に向けられていた。
「……ほう」と怒るより、なぜか納得しているような声色に一先ず安心はするけれど……これは一体……!? prev / next