君がほしい | ナノ
▼ 嫉妬
流川くんと別れて廊下を歩いていると、突然開けられた会議室の扉から得体の知れない手が伸びてくる。
びっくりしている間にその手は腕を掴んで会議室の中へと私の身体ごと引きずり込む。
バタンと少し乱暴に閉められたと扉と同時に私の身体が壁へと打ち付けられた。

ひんやりとした温度が背中に広がる。
電気のついていない会議室の中に光る二つの瞳。
いつもとは違った冷めた声。
その主は、私のよく知る彼だとすぐに悟った。



「……仙道くん?」



私の両手首を顔の真横の壁に縫い付けたまま、彼は冷たい瞳で見下ろしてくる。



「なにやってるの?」

「なにって……」

「のんきに流川とランチデート?」

「……」

「言い返さないってことは認めるってこと?」

「ちがっ、」

「じゃあなにしてたの?二人っきりで、あんなに仲良さそうにして」



手首を掴む手に力がこもる。
柔らかい口調なのに感情のこもっていない声色。

……仙道くんが、怒ってる。



「……ただご飯を食べてただけだよ」

「なんで?」

「なんでって……」

「俺が誘っても周りの目を気にして断るくせに流川ならいいんだ?」

「そういうわけじゃ、」

「そういうことだろ?名前さん、アイツの方が良くなったんだ?」

「……どうしてそんな話になるのよ」



意味わかんない。
話しの辻褄が無茶苦茶じゃない。



「浮気するなんて悪い人だね」



いまの一言で、プツンと何かが切れる音がした。



「悪い人だよ、名前さん」



キスをしようと顔を近づけてくる仙道くんから顔を逸らした。



「浮気って、なに?」

「だから流川と――」

「自分のこと棚に上げて私のことだけ一方的に悪者扱いしないでよ」

「……名前さん?」

「この間の試合後のデートは?」

「……」

「次から次へと交換している連絡先の数は?」

「……」

「女の子達がね、よく仙道くんの話してるよ。ご飯行くとか、デートするとか」

「……」

「知らないと思った?」



話す隙を与えずに一気に吐き捨てた。

私はそこまで馬鹿じゃない。
仙道くんの噂くらいいままで何百回と数え切れないほど耳にしてきたんだから。 prev / next

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