君がほしい | ナノ
▼ 味見してみる?
今日の業務が終わり帰り支度をしていると、ロッカールームに別の女の子が駆け込んでくる。
やけに慌てて着替えたり、化粧直しをしたりと大忙し。
聞けば、このあと仙道くんとデートなんだそう。
……前に言ってたアレか。

社内でも仙道くんのファンは多い。
話しかけやすくて気さくで、誰に対しても優しいのが理由だろう。
誰とでもヤっちゃう、ってのもそのうち追記されるかもしれないけどね。


嬉しそうに話す女の子を背に、私はロッカールームを出た。



「……お前、」



駅まで歩いていると、前方からふと声が届く。
なんとなしに見上げた先には思わぬ人物がいて目を見張った。



「あれ……?」

「前にスーパーで会った奴だよな?」

「そうです。その節はどうもありがとうございました」



前にお肉を譲ってもらった人が今日もあの時と変わらず大きな態度だったのでちょっとだけおかしかった。

青みがかった短髪が印象的。
184センチの細身くん。
世界は狭いんだなぁとつくづく実感させられるって、こういうこと。



「こんなとこで何してんだ?」

「私は仕事帰りですよ。そちらは?」

「俺もまあそんなところだ」



……ほんとに?
なんか面倒臭いから端折っただけみたいに聞こえたんだけど?



「今日も彼氏んとこか?」

「この前否定し忘れたんですけど、彼氏じゃないです!そして今日は行きません、帰ります!」

「だったらちょうどいい。ちょっと付き合ってくれ」

「……はい?」

「お前料理できるんだろ?」

「まあ人並みには……」

「この前肉譲った借りだと思って、な?」



な?……って。
返事聞く前に腕引っ張ってるのは誰ですか!
どう考えても二回目にあった相手への態度が間違ってると思うのは私だけ?


彼の名前は、三井寿というらしい。
年齢と職業と血液型は内緒らしい。

……なんで?
特に興味もないけど、隠される意味がよくわからない。
ちなみに大学を卒業するまではバスケットボールをやっていたらしい。
どうりで身長が高いのも納得だ。
高いっていっても、仙道くんと流川くんと比べたら低いけど……


連れて行かれるがままに、前に行ったスーパーに立ち寄って男の人がせっせと買い物を済ませる。
驚いたのは、行き先がその人の家だってこと。
全力で拒否したのに「とって食ったりしねーよ」と一蹴されて渋々上がることになってしまった。

別に食われたかないけど!
ほぼ初対面の、しかも男の一人暮らしの家に上がりこむって……なんだかなぁ。
躊躇してるのはそこよ、そこ!



「ビールでいいか?」



お邪魔するなり、ビール!?って思ったけど寿はとっくに缶タブを開けちゃってる。

ちなみに呼び方は寿でいい、と本人に言われた。
え、呼び捨て!?って思ったけど、もういちいち突っ込むのは面倒臭いので諦めている。
この人、結構強引にグイグイくるタイプらしい。
見るからに悪そうな肉食系って感じがするけどね。

ありがとう、と缶ビールを受け取って口をつける。
何本か空き缶が転がる頃には、割と打ち解けていたのが驚きだった。 prev / next

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