君がほしい | ナノ
▼ 新人広告塔
スタジオに戻る角を曲がったところでドンッと誰かにぶつかった。
仰け反りそうになる身体を力強い手がナイスタイミングで私の腕を掴んで引き戻す。
見慣れないジャージが視線の先に映る。

ゆっくりと視線を上昇させた先には、



「あっ」

「……」

「流川くんっ!」



いやいや、アクビしている場合じゃないでしょう。
すでに約束の時間からは一時間も遅刻してるっていうのに。
……相変わらずのんきなんだから。

何度か契約の際の打ち合わせで顔を合わせているため、お互いのことは顔と名前くらいは知っている。



「何度も電話したんだよ!」

「ねてた」

「そうだろうとは思ったけど……初の撮影でここまで堂々遅刻してくるかなぁ……」

「すまん」



プリプリ怒る私に悪びれもなく彼は謝罪を述べる。
そんな堂々と謝られたら怒る気もなくなるっての。



「とりあえずユニフォームに着替えて」

「ん」

「流川くんの遅刻のせいで仙道くんだけ先に撮り終わってるから。流川くんはソロとツーの撮影」

「ツー?」

「仙道くんとのツーショット、来月号の表紙になる予定の」

「ん」

「その後は先月のアメリカとの練習試合のインタビュー」

「りょーかい」



ユニフォームを受け取った流川くんはスタスタと歩いて行く。



「……流川くん、どこ向かってるの?」

「ロッカー」

「ロッカールームはあっち!反対っ」



もう!
モタモタしてたら部長に怒られちゃうのにっ。

流川くんの腕を引っ張ってロッカールームまで連れて行くと、ちょうど中から仙道くんが出てくるところだった。
ドアのところで「おっと、」と声が出る。
流川くんといえば、遅刻してきたくせに仙道くんのこと睨んでるし……まったくもう。

二人は高校時代のライバルだったらしくすでに面識がある。

”天才プレーヤーと呼ばれた仙道彰と新人ルーキーの流川楓”

そんな肩書きがあったのだとか。
ついでに牧部長は”帝王・牧”と呼ばれていたらしい。
これ全部、牧部長情報なんだけどね。



「新人広告塔め、やっと来たか」

「ふん」

「『ふん』じゃないでしょう、流川くん。遅れたんだから謝らないと」

「すまん」

「私だけじゃなくて、仙道くんや他のスタッフさん達にもね!」

「……ふんっ」



ほんとにわかってるんだろうか……?
高校時代だけじゃなくて、社会人になってもライバル意識は止まらないみたい。
なんたってウチの会社の二大広告塔ですから。
これから先、大変そうだなぁ……


とりあえず着替えてほしいので流川くんをロッカールームに押し込む。
入れ替わりで仙道くんが廊下に出てくるとドキッと心臓が鳴った。



「そんなに構えないで」

「今はダメ、流川くんがいるんだから」

「わかってるよ。お楽しみは夜までとっておく」



私の耳元に口を寄せて囁いた。
そのセリフにさらにドキドキと大きな音を心臓が立てている。


今日の夜……か。
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