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「お前のほうはどうなんだ?」「何がです?」
「アメリカに行く時に付き合っていた彼女とはしばらく続いていたんだろう?」
「あー、まあ。でも結局別れましたよ」
……うん?
これってただ遠距離は難しいんだ、とかそういう話?
っていうかいつの間にさっきのピリリ感消えたんだろう!?
失礼かもしれないけど、どちらもおっとりしているというか……
仕事中はしっかりしていて頼り甲斐もあるのに、プライベートになると謎過ぎるんですが……
「さっきのインタビューでも答えましたよ、『今は恋人募集中です』って」
「まったく……うちの雑誌をお前の恋活に利用するな」
「苗字さんはそんな固いこと言わなかったっすよ、ね?」
「……え!?」
「今日のインタビュー楽しかったですよね?」
「それは、はい、もちろん」
「ほら、こう言ってることだしいいじゃないですか!」
「ったく……苗字も沢北にまんまとノせられるな」
呆れたようにため息を一つ吐く牧部長にとりあえず「すみません」と謝っておいた。
「お二人は仲が良いんですね」
「そう見える?」
「はい」
「間違ってはいないけど、当たりではないかなぁ」
「えっ?」
「高校時代は県境を越えてライバル同士だったし、社会人の今なんて国境を越えて使われているわけで……」
「使われているって……!」
一応高額ではないけれど、それなりのギャラは発生してるんだからね!
思わず私が突っ込む前に牧部長も同じセリフを言っていて笑ってしまった。
ホスト側からしたら考えることは同じことってわけですよ。
「高校の頃からその小生意気な態度と憎たらしい言動は変わらんな」
「ええ!牧さん、俺のことそんな風に思ってたんですか?」
「多少はな。先輩相手に挑発するわ、大口叩くわ、深津を尊敬せずにはいられなかったくらいだ」
「あの……深津さんというのは?」
「沢北がいた山王高校バスケ部の主将だ。今は流川と同じチームでプレイしてる」
「ああ、あの深津さん!」
「変わってる奴だが実力はある選手だぞ。次は深津の企画でも組むか」
「いいですね!明日アポ取ってみます!」
「……」
「沢北さん、どうかしました?」
「牧さんめ……」
おーい。
私の声聞こえてる?
……聞こえてないなこれは。
涼しい顔でグラスに口をつける牧部長をなぜか悔しそうに見つめていた沢北さんがいた。
「プレイでもよく相手の嫌がることばっかりしてたんだよ、この人」
そっと体を傾け、私の耳に口元を寄せた彼はこっそりと呟く。
してやった顔の沢北さんが妙におかしかったのは言うまでもない。
どうやら話の論点が深津さんに移ってしまったことに不貞腐れていたようだ。
そんな子供っぽい彼の理由に笑をこらえられるはずはなく、
「クスクス」
「クックッ」
「……」
彼の眉間のシワはさっきよりも少しだけ深く刻まれてしまったのだった。 prev / next