君がほしい | ナノ
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よれた服をしっかりと着直し、周りに人がいないことを確認してから会議室を出た。
また後で、そう言って彼は反対方向へと歩いて行く。
そして、私もスタジオへと急いで向かった。


私が働くここは、バスケットボール専門の会社だ。
バスケットボールの知名度を広めるために、日本で初めて創設されたこの会社は今じゃ知らない人はいない。
バスケファンなら働きたいと思うし、バスケをやっている人なら契約したいと思うのが当たり前。

バスケ専門のショップは全国各地に店舗拡大。
日本屈指の選手が専属の広告塔。
テレビやCMの契約も今やかなりの数。

そんな中でも私の主な仕事は、ウチの会社と個人契約をしてくれている選手たちのスケジュール管理等――マネージャー業みたいなものだ。


今日は、来月の月刊バスケットボールの表紙撮影がある。
スタジオに足を踏み入れれば、来月の表紙を飾る選手の顔があった。



「おはようございます、部長」

「ああ、苗字か。おはよう」



この人は、直属上司の牧部長。
本人も昔は神奈川トップのバスケットプレーヤーだったが、今は表舞台から引退して影の業務についているんだとか。
そんな部長はまだ入社二年目の私をとてもよく面倒見てくれている。



「苗字、ちょっとこっち来い」

「……あの?」

「襟がジャケットの中に入っててみっともない」

「えっ」

「仕事に入る前は必ず鏡で全身チェックしてから入るように」

「す、すみません……!」



うわ……恥ずかしい。
さっきまでの淫らな行為が一瞬脳裏にフラッシュバックする。

遠くから視線を感じてそっちの方向を向くと、さっきまで一緒にいた張本人がバッチリ私を捉えていた。
ここからでもわかるくらい彼の瞳は笑ってない。
表情は笑ってるけど、あの顔は絶対怒ってる顔だ。



「来月の表紙は仙道流川のツートップか」

「はい」

「それぞれのソロもいれろよ」

「はい」

「あと先月行われたアメリカチームとの練習試合についてのインタビュー記事も載せろ」

「はい」

「写真は――」



部長は細かい指示を下し、それを一つ残らずメモする。

まだ若いのに仕事は出来るし、頭も切れる。
上層部からの期待はすごいらしい。
牧部長はそんなプレッシャーを感じる様子はなく、淡々と、でもきっちりと仕事を完遂する。

部長からの指示通りに、カメラマンさんや周りのスタッフさんにも指示を出す。
スタジオのセット内にはすでに一人いるが、もう一人はまだ来ない。
とりあえず先にいる彼だけやっちゃおうかな。



「仙道くん」

「ん?」

「まだ流川くんが来ないから先にソロの方だけ撮ってもいい?」

「ああ、構わないよ」

「ありがとう。じゃあ立ち位置はここで、」

「……さっき、」



突然仙道くんが立ち位置に立つふりをしながら近づいてくる。



「牧さんに触られてたね」

「あれは、襟を直してもらっただけで……」

「ダメだよ。後でお仕置き」



そして、彼の撮影が始まった。 prev / next

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