君がほしい | ナノ
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スタジオにいく前にトイレに寄ってお化粧を直す。
涙の痕をファンデーションで隠した。

泣きたくなかったけど、やっぱり仙道くんの存在は私の中では大きかった。
二年間も一緒にいたからさよならが辛いのは当たり前かもしれない。

少し遅れてスタジオに入ると、牧さんに出くわした。
あの告白の日から会うのは初めてだ。



「おはよう、苗字」

「おはようございます」

「今日のスケジュールはどうなってる?」

「今日は来月号の撮影と、午後に例の沢北栄治選手とのインタビューが入ってます」

「楽しみにしてると言っていたぞ」

「それは私もですよ」

「ああ、そうだ。言ってなかったが、インタビューの前に記事に使う写真の撮影をする予定だから沢北が来たら対応を頼む」

「わかりました」



牧さんは特にこの前のことに触れることなくいつも通り指示をくれる。
オンとオフの切り替えがしっかりしているあたり、私も見習わなくちゃ。
公私混同なんてしているうちはまだまだ一人前とは言えないもの。

スタジオを出ていく牧さんの背中を眺めていると、朝と同じように背後から同じ声がした。



「通れん」

「もう、流川くん。わざわざこんな右っ側を歩かなくてもいいでしょ」

「どこを歩こうが俺の勝手」

「それはそうだけどさぁ……」



子供かて。
俺の勝手、って。
時間通りに来てくれたのは嬉しいけど、今日は素行に問題あり、ね。



「名前サン、喉乾いた」

「はい」



「名前サン、お腹空いた」

「はい」



「名前サン、タオル取って」

「はい」



「名前サン、……疲れた」

「……」



……絶対わざとやってるでしょ、これ。
さっきからずーっと周りに纏わり付かれてるんですけど!



「あのー……」

「今度はなに!?」



つい流川くんだと思って粗雑に返事をしてしまったら、



「……す、すみません」

「ごっごめんないさい!!!間違えました!!!」



なぜか流川くんは私の真横に立っていて、
視線の先――真向かいに立っていたのは坊主頭が特徴の――


……アメリカンルーキーだった。 prev / next

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