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「何、言って――」「私、好きな人ができたの」
「……」
「ここまで言えば、わかるよね?」
彼に発言の隙を与えない。
問い詰められたらボロが出ちゃいそうだし。
『好きな人だれ?』って聞かれても……今はまだ、どこにも答えなんてないんだもん。
仙道くんの顔が一気に強張ったのが見て取れた。
でも私も精一杯のポーカーフェイスで気持ちを隠す。
すると突然、
「……邪魔」
背後から思わぬ声が届く。
……ん?
この声はまさか、
「通れん」
「流川くん……!?」
「驚き過ぎ」
「え、だって、流川くんが時間通りに来るなんてどうしたの?雹(ひょう)でも降ってくるんじゃ……」
私を睨み付ける流川くん。
でもでも、彼が時間通りに来るなんて契約して依頼始めての出来事だから驚かない方がおかしい。
他のスタッフも驚くに違いないんだから。
……あ、わかった。
前に次遅刻したら減給だ、って牧さんに言われてたからだ!
牧さんパワー、恐るべし。
「行かねーの?」
「あっ、うん……いく」
「流川、」
「……」
「今は俺が名前さんと話してる」
「……」
「行くなら一人で先に行ってくれ」
流川くんに続いて行こうとしたら仙道くんの声が私たちを引き止める。
「名前さん、話はまだ終わってない」
「……仙道くん、」
「俺は――」
「気付いた時にはもう遅い、なんてことはよくあること。試合でもそうでしょう?どんなに頑張ったって報われないゲームがあるのと一緒」
「……」
「私には、仙道くんとのゲームは向かなかったの」
「いこう、流川くん」
流川くんに声を掛けた時、酷くゆがんだ表情の仙道くんを初めて見たかもしれない。
……でも、同情する気にはなれない。
自業自得だけど、私だってたくさん傷つくことはあったのだから。
「……いいのか」
「うん。みんなには内緒にしてね」
「……ん」
新人ルーキーくんは、優しかった。 prev / next