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一行為が終わった後、再びお湯に浸かる私たち。すでに日が暮れて夕焼け時だった。
空がオレンジ色に変わる瞬間を人生で初めて見たかもしれない。
気だるい体を背後にいる寿に預けると腕がお腹に回された。
すごく時間がゆっくり流れている。
忙(せわ)しさをこれほど感じないのも贅沢なものだ。
「寿といるとすごく楽。素でいられるの」
仙道くんにも、
流川くんにも、
牧さんにもない、
”安心感”とか”ありのままでいられる楽さ”がある。
まだ出会って月日は浅いのに、そんなのは関係ないらしい。
「……なぁ、」
「うん」
「そろそろ付き合うか」
「……え?」
「仙道のことは俺が忘れさせてやるよ」
「寿……」
「どっちにしても、もう名前のことは離してやれそうにねぇ」
もう一度触れ合う唇。
ヒシヒシと伝わってくる想い。
会った回数も、出会った年月も、恋愛には関係ない。
大事なのは相手を思う気持ちだ、と――彼は私に教えてくれた。
でも、寿には伝えなければいけないことがある。
「……私、」
小さく息を整えて、意を決して口を開いた。
「この間、別の人にも告白されたの。付き合ってほしい、って」
「会社のヤツか?」
「……そう」
「それで、何て返事したんだよ?」
「する前に今はまだ返事はいらないからって言われちゃった」
「……」
「その人もすごくいい人でね、寿と同じように私のことを真剣に想ってくれる人だと思う」
「……」
「少し、待ってほしい……今はまだ、心の整理がつかないから」
仙道くんのことも。
牧さんのことも。
寿のことも。
ちゃんと大事にしたいからこそ、簡単に結論を急ぎたくない。
最後に後悔は……したくないから。
私の言葉に寿はしばらく黙って考え込んだ後、「わかった」と承諾してくれた。
お風呂を出た後はさっきの告白の気まずさを払拭するように普段と変わらぬ私たちがいた。
中居さんが敷いてくれた二枚のくっついた布団で一緒に寝た。
――温泉旅行という名の慰安旅行。
寿からの思わぬ告白に私の心は大きく揺れていた。
「名前、」
「ん?」
「仕事頑張れよ」
「ありがとう」
寿、ごめんね。
もうちょっとだけ、待ってて。 prev / next