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真っ正面に見える富士山。澄んだ空気。
言葉を失う絶景。
最初は躊躇いと恥じらいを備えていた私も、さすがに感無量だった。
こんなに素敵な宿に連れてきてくれた寿に感謝でいっぱいだ。
それを伝えたら得意げに「苦しゅうない」とかふざけてたけど……今日は多めに見ることにする。
少し離れてお風呂に入っていた私の身体を寿が見逃すはずもなく、一瞬にして引き寄せられる。
景色に見入っている私を寿はただ背中から抱き締めていた。
「すごい綺麗。ほんとに感動してる」
「予想以上だな、ここは」
「あれ、来たことがあったわけじゃないんだ?」
「ねーよ」
「へぇ意外。前にも女の子を連れて来てるのかと」
「女と出掛けるの好きじゃねー」
「そうなの?」
「だってあいつら準備は長ーし、文句はいうし、めんどくせーだろ」
「まあ強ち間違ってはいない……」
「その点名前は単純だし、わかりやすいし、楽でいい」
それってバカにされてるの?
それとも褒められてる?
……どうせ寿のことだから前者なんだろうな。
もうバカにされ慣れてるからいいけど。
「私も一応女なんですけどね……」
「んなもん知ってる」
「ふーん」
「でも、他の女と違うから特別なんだろ」
「なに、寿の中で私は特別枠だったんだ?」
「今更かよ」
「……まあ」
「わかんねーならたっぷり教えてやろうか?」
「全力で遠慮しておく!」
「遠慮すんなよ」
遠慮するって言ってんのに!
人の話聞いてんのこの男は!?
お風呂の中で巻いていたバスタオルがするりと外された。
バスタオルが水面に浮かんでくると、私の身体を覆うものがなに一つなくなったことを示している。
振り返ると意地悪な顔で笑っている寿がキスをしてくる。
啄ばむように何度も繰り返されるキスは、会っていなかった日々を打ち消すくらい熱いキスで、
「もっと口開け」
「開いて、る、」
「舌も絡めろよ」
何も考えられないくらい頭の中が朦朧としていった。 prev / next