君がほしい | ナノ
▼ 
信号で止まるたびにスキンシップを試みる寿を注意するのはさすがに面倒臭くなったので最後の方は放っておいた。
そしたら構えだの何だのって不貞腐れていたからそれも放っておいた。


予約してくれていた旅館について、スタッフに案内されて部屋に通される。
そこはオーシャンズビューで部屋から富士山の見える、開放的な素敵なお部屋だった。

とりあえずお茶やお菓子が置いてあるテーブルで一休みを図っていると、



「なぁ、」

「ん?」

「この部屋客室露天風呂付きだからよー、」

「……」

「後で入ろうぜ」



したり顔の寿。



「絶対やだ!」

「名前に拒否権ねーからいいんだよ」

「拒否権ないとか人権侵害!」

「うっせー」

「……っていうか、目的はその露天風呂?」

「ばっ、それだけじゃねーよ!」

「じゃあ他はなに?」

「あ?」

「他の目的ってなによ」

「チッ」

「……」

「お前電話した時とかあんま元気なかっただろ。だからたまにはパァーッと、……」



照れたように目を逸らして頭を掻き毟る寿。
彼の不器用な優しさに少しだけ心が温かくなったのは本人には教えてあげない。



「寿、ありがと」

「おー」

「たまにはいいとこあるね」

「一言余計だ」

「ふふっ」

「よし、入るか」

「え!やだ!」

「俺に感謝してるんだろ?」

「なんて恩着せがましい……」

「つべこべ言ってねーでさっさと行くぞ」



どっかで聞いたことのあるセリフ。
これは始めてスーパーで会った時と同じ展開だ。
何処か上から目線なのに、結局寿の思いやりに私は負けてしまうのだ。

せっかくなので、と着替えた浴衣もすぐに脱ぐ羽目になってしまったようで。
はぁっとため息をつく私を無視して寿は露天風呂に連行する。


ただ、客室露天風呂からの景色は言葉を失うくらいの絶景だった。 prev / next

[ back to top ]


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -