君がほしい | ナノ
▼ 温泉旅行
「温泉?」

『おう』

「今から?」

『ああ、もうすぐ名前ん家の下』



週末のその日、家でのんびりとしていた私の元に一本の電話が寿から入った。
たった四言が事の全てだ。

確かについこの間家の住所を聞かれて教えたことがあったっけ。
週末の予定も聞かれた記憶があったような。
……全てはこういうこと!?

だいたい準備とかあるんだよ!
女の子には、いろいろと。
わかってんの?
……いや、わかってないからこんなとんでもないサプライズを仕掛けてくれちゃってるんだろうけど。



「よー」

「よー、じゃない!どういうこと!?」

「さっき説明しただろ?」

「その説明の意味がよくわからないから言ってるの!」

「だから、要は今から温泉旅行にいく」

「あのねぇ……」



なんで私が!?
しかもなんで温泉!?
突っ込みたいことは山々なのに早くしろ、と背中をグイグイ押されて寿の車に押し込まれる。
これって半分拉致的なことだけど、この男はわかってるの?
……いや、絶対わかってないだろうな。


サングラスをかけて運転席に座る、ちょっとご無沙汰の寿。
連絡はちょくちょく取っていたけど、時間が合わなくて最後に会ってからしばらく経っていた。

車内に流れる音楽に合わせて鼻歌を口遊む。
チラッと視界の端に見えた彼の運転さばきはまあまあだったから……仕方ない、許してあげよう。



「窓開けてもいいぞ」

「ん」



お言葉に甘えて窓を開けると、新鮮な空気が吹き込んでくる。
都会から離れかけている景色は次第に緑を含み始めていた。
こうやって出かけるのって、実はすっごく久しぶりだったりする。

信号で車を止めた寿は不意に左手を伸ばして私の足に触れる。
シートベルトに制限されながらも倒れるようにして身体を傾けてたかと思えば、



「んっ……」

「久しぶり」

「寿っ!」

「んだよ、いいだろキスくらい」

「窓開いてるんだから周りに見えちゃうでしょ!」

「誰も見てやしねーって」



信号が青になると再び車が動き始めて助かった。
当の本人はチッと舌打ちをしていてすごく不服そうだったけど。


ここ最近いろんなことが一気にあったから、素でいられる寿と一緒にいられることは私にとってはとても楽だった。
友達以上恋人未満、でも楽な関係。
寿との空間や時間は、私に元気を与えてくれる。 prev / next

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