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乾いた音が辺りに響いた。視界が歪んでよく見えなくなってくる。
次第にポロポロと瞳からこぼれ落ちてくるこれって……涙?
私、……泣いてるんだ。
大声だした時点で注目の的だったんだから、人一人引っ叩こうが、泣き出そうが関係ない。
どうせ知らない人の視線なんだからもういいや。
「ふざけないで」
「ふざけてないよ」
「バカにしないで」
「してない」
「仙道くんのそんな安い言葉、いちいち私が信じてると思った?」
「……」
「……もう、仙道くんとの関係に疲れた」
それは、心の底から漏れた本心だった。
きっと自分の知らない女の人と仲良くする仙道くんにヤキモチ焼いたのかもしれない。
でも、ランチをしただけで怒られて。
会社の至る所で彼の気分次第でイケナイことばっかりして。
そういうのに振り回されるの全部、もう疲れたよ。
仙道くんは何にも言い返してこない。
ただ真っ直ぐな視線だけを感じる。
「……仙道?」
「……牧さん」
「どうした?こんなところで」
「……」
牧さんのが戻って来たことを知らせるには、良いタイミングだったのか悪いタイミングだったのかはわからない。
「苗字……?」
「……」
「何かあったのか?」
ただならぬ雰囲気だけは感じ取ってくれたようだ。
そりゃそうか。
戻ってきたら私が泣いてるんだから。
しかもその横にはさっきまでいなかった仙道くんまでいるわけだし。
「悪いが、仙道」
「……はい」
牧さんの低い声。
威圧感は十分だった。
仙道くんが立ち去ったのを確認してからゆっくりと顔を上げると、そこにはひどく心配そうな顔をした牧さんがいた。
……なんて言えばいいんだろう。
そういえば、帰って来た時にかける言葉、まだ考えてなかったや。
私の顔を見た牧さんは一言、
「出よう」
それだけ言った。
そして私達は静かにレストランを後にした。 prev / next