君がほしい | ナノ
▼ 嫉妬 U
ドキドキしてる。
まだ心臓がドキドキいってる。
口から出てきちゃうんじゃないかってくらい。

だってまさか牧さんからあんなこと言われるなんて……

そりゃね、好きって言われたわけじゃないし。
告白だって別にされたわけじゃない。
でも、『俺との運命を信じるか?』って……どういう意図で訊いてきたんだろう?
何て答えれば正解だったんだろう?

考えれば考えるほどわからない。
むしろ考えようとしても頭が真っ白になる。



「はぁー……」



誰もいないテーブルに、小さなため息が零れる。
お水の入ったグラスで口内を潤すと少しだけマシになる。
……少しだけね。
根本的な心情や状況は何にも変わってはいないから気休め以外の何物でもないんですけどね。

とりあえず牧さんが戻ってきたらどうしよう?
何て声をかけるべき?
無難に、どこ行ってたんですか?とか?

はあ……また頭が混乱してきた。



「……名前さん?」



ふとどこからか呼ばれる名前にビクッと身体が震えた。

……なんでこのタイミングで。

私が一番聞きたくない声。
それは、一番会いたくない人物の声だった。

誰かはわかっていた。
わかっていて顔を上げたら、……やっぱりその人だった。



「やっぱり名前さんだ」



長身の彼はおしゃれなスーツを上手に着こなしていて、トレードマークのツンツンの髪もレストラン仕様でまとまっていた。



「……仙道、くん」



彼の隣には綺麗な女の人が立っていた。
スラッとした長身に抜群のスタイルで着ているワンピースがよく似合うモデルさんのような人。
仕事帰りに立ち寄っただけの私とは……大違い。

そんな彼女の腕は、しっかりと仙道くんの腕に絡まっていた。



「こんなところで誰とデート?」

「……別に」

「また流川?」

「……」



だから、この前もデートじゃないって言ってるのに。
ただランチをしただけのあの出来事を嫌味ったらしく持ち出すなんて……



「彰、この方は?」

「この人は苗字名前さん。個人契約している会社のマネージャーさんみたいな人」

「そう、それなら安心ね」



何が安心なのか。
女の人は心底嬉しそうな顔で微笑んで、その笑顔がやけに私をイライラさせた。



「行きましょう?」

「……」

「彰?」

「あー、俺次の打ち合わせのことでちょっと話あるの思い出したから先に席に行っててくれる?」



早く来てよ、と唇を尖らす彼女の頭を仙道くんが撫でると、彼女は仕方なさそうにウェイターに案内されながら奥のテーブルへと進んで行く。

そして残った彼の心情が、私には全くもって意味不明だ。 prev / next

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