君がほしい | ナノ
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ワインのせい?
それとも牧さんのせい?

顔が一気に熱くなった。

酔いのせい?
単に恥ずかしいせい?

どっちにしても、牧さんのいまのセリフは……すごく意味深で、私をドキドキさせるには十分過ぎた。
心臓がドキドキとうるさいくらいに音を立てているのが聞こえちゃいそう。



「入社して二年、か?」

「は、はい」

「人生は何が起こるかわからないもんだな」

「そ、そうですね……」



……牧さん、ちょっと酔ってる?
さっきからすごい勢いでグラス空けてるけど……



「前に大学時代に怪我をしてバスケをやめた話をしただろ?」

「はい」

「あの当時、付き合っていた彼女にちょうど同じタイミングで振られたんだ」

「牧さんが……?」

「ああ。他に好きな人ができた、と」

「……」

「一瞬にして目の前が真っ暗になって、大げさな言い方をすれば生きる希望がなくなったんだ」

「そう……だったんですか」

「もう恋愛は当分しないと決めて、今日までその決意を守ってきた」

「……」

「やはり、人生は何が起こるかわからない」



怪我をして大事なバスケを失って。
他に好きな人ができたと大事な彼女にも振られて。
当時の牧さんはどん底にいて、その当時の彼の闇を理解しようと思っても到底できることではないだろう。
そんな牧さんだからこそ誰よりも人生の大切さを痛感しているのかもしれない。

しみじみと感慨深そうに二回呟いた後、



「苗字は、運命を信じるか?」

「運命……?」

「同じ会社に入って働いているこの偶然が結び付けた運命を、信じるか?」



偶然が重なって運命に……?
それを信じるかって?
っていうか急にどうしたんだろう、牧さん……

なんと答えれば良いのかわからずに黙って見つめ返す。
いたって真面目な質問をしているらしくふざけた空気は微塵もない。

しばらく無言のまま見つめあった後、ふっと牧さんの表情が緩んだ。



「少し酔ったかもしれん」

「……はい」

「すぐ戻る」



夜風にあたりに行ったのか、コーヒーを飲みに行ったのか、はたまたタバコを吸いにいったのか。
どれが正解なのかはわからないけど、牧さんはそれだけいって静かに席を立った。

そして彼が戻ってくるまでの間、私も私でうるさい心臓を鎮めるので必死だった。 prev / next

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