君がほしい | ナノ
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「牧さんはこういう場所はよく来るんですか?」

「来る時は接待が多いな。プライベートでは滅多に来ないさ」

「そうなんですね。慣れているようだったので少し意外かも……」

「普段は箸を使う方が好きだし、飲み物もワインより日本酒派だ」

「へぇ!」

「日本人だからな。苗字はどうなんだ?」

「私もお箸が好きですね。飲み物は……お茶、ですかね」

「クックッ、大和撫子らしくていいじゃないか」

「あはは、ありがとうございます」



大和撫子って……!
すごい例えだなぁと思いつつも、まあ嬉しいからいいや。



「仕事を頑張っているあたりもさすがだな」

「さすが?」

「さすが、典型的な日本人だ。ああ、いや、大和撫子……って呼んだほうがいいか?」

「ふふ、今のはちょっとわざとらしいですよ」



たまたま目が合うと、ふわりと牧さんが微笑んだ。
仕事中はキリリとしている目付きもいまは垂れたウサギみたいな目をしている。

思わずドキッと心臓が鳴った。
このキラースマイルはダメでしょうよ……!
かけていたメガネを取る瞬間もドキッとしたけど!
それ以上にいまの不意打ちスマイルはやられた感マックス!


大人の男性ってだけでもドキドキする。
その上、相手は尊敬する部長。
しかもミスターパーフェクトな牧さんなんだから……この食事が終わる頃、私の心臓は無事なまま残っているんだろうか。



「同じモノでいいか?」



空になったグラスを見て、牧さんが尋ねてくる。



「牧さんは?」

「俺は、赤にするところだ」

「じゃあ私もそうします」

「ほぉ、赤ワイン好きなのか?」

「好きってわけじゃないですけど……せっかくなので。まあこれも経験ってことでしょかね」

「大した心意気だな」



ウェイターを呼んで赤ワインを注文する牧さん。
銘柄だとか年代だとか難しくて私にはちんぷんかんぷんなことをさも当たり前のようにスマートに口にしていた。

しばらくして運ばれて来た牧さんチョイスのワインは、これまで飲んだワインの中で一番美味しかった。



「ん、美味い」

「本当に美味しいですね、このワイン」

「ああ、そうだな」

「たくさん飲めちゃいそう……」

「……知ってるか、苗字」

「何をです?」

「料理やワインの味の半分は、誰と一緒に食べるかってことで決まるんだ」

「え?」

「今日の食事やワインが美味しいのは苗字と一緒だからさ」

「あの……牧さん……?」

「楽しいよ、すごく」



牧さんの表情には妖艶な笑みが浮かんでいた。 prev / next

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