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言葉通り本当に私のお金でランチを食べるらしい流川くん。980円……
ヒラヒラ飛んでいってしまうのか……
普段とそう変わらないクールな食べっぷりでビーフカレーを黙々と口に運んでいる流川くんをじっと見つめてみる。
ここまで表情に出ない人って相当珍しいんじゃない?
少なくとも私は会ったことがない。
もうちょっと美味しそうに食べれてもいいんじゃないの……?
「……なに」
「流川くんって高校の時からそんな感じなんだってね」
「どんな感じ」
「遅刻癖があって、無口で、バスケが上手い?」
「最後のテキトーだろ」
「えっ、そんなことないよ!」
「……」
「それに、ほら、こう見えて実は意見をはっきり述べるし」
フォローしたつもりだったのに、アンタの中の俺のイメージはどうなってんだ、って彼はやけに不満そうに漏らす。
「あの女の人、流川くんのこと狙ってたのかなぁ」
「……興味ねー」
「彼女とかは?いないの?」
「バスケ」
「……ん?」
「バスケが恋人」
ま、まさか、そんな切り返しが来るとは……
それって典型的な昭和の答え方だよ!
冗談でいってるのか、本気でいってるのか……この無表情から読み取れる人がいたらすごい。
「でも、さすがモテるよね!」
「……」
「月刊バスケットボールの読者からも流川くんに対する問い合わせが後を絶たないの」
「……」
「そのうちプライベート特集もやることになっちゃうかもね」
「やだ」
「今のは私の勝手な話だから鵜呑みにしなくていいよ」
「……」
「全ては牧部長次第だから、せいぜい遅刻して機嫌を損ねないように気を付けて」
流川くんの人気は仙道くんといい勝負。
それどころか最近はチームが優勝した勢いもあって、追い越しそうな気配まである。
そんな今一番話題の彼を女性ファンが放っておくはずがない。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
お互いが食べ終わったタイミングを見計らって席を立つと、「……なぁ、」と流川くんの声に呼び止められる。
「するならアンタがやれ」
「なにを?」
「その記事。他の奴だったらやらん」
「だから、さっきのは冗談――」
「名前サン以外の奴にいろいろ聞かれるの……ウザイ」
「あ、ちょっと……!」
なに今の?
それってどういう意味?
自分の言いたいことだけ言い終わると、さっさとお会計を持って行ってしまう流川くん。
っていうかそれ、私が払うんじゃなかったの?
結局ご馳走になる羽目になっちゃったんですけど……
優しいんだか、優しくないんだか……掴み所のない彼は、今日も私を翻弄したのだった。 prev / next