君がほしい | ナノ
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男の狭い一人暮らし部屋とは似つかわしくない香りが漂ってくる。
我ながらいい感じだ。
お鍋から大根を一口とって味見してみると、懐かしい母直伝の味がした。
これは成功かも!



「どうだ?」

「うん、美味しい!」

「俺も味見」



そういってなぜか口を大きく開けてくる寿。
これはまさか……、



「……何やってるの?」

「味見待ち」

「自分で箸使いなよ!」

「あーんってやつ、男のロマンだろ」

「そういうのは彼女にしてもらうものでしょ!」

「いま彼女いねーし」

「だからってねぇ……」

「今回だけだからいいだろ、な?」



そのセリフ、怪しい。
結局押しに負けて、同じように一口サイズに切った大根を寿の口元へ運んであげる。



「あちっ」

「あ、ごめんっ」

「でもうめぇ」

「よかった!これでお母さんに作ってあげられるね!」

「おう」



まさかスーパーで肉を取り合っただけの偶然が料理教室を開くことになるなんてあの時は想像もしなかった。
会社の近くですれ違ったのもすごい偶然だよね。
最初はどうなることかと思ったけど、でもまあ無事にできてよかったな。



「じゃあ、私――」

「もう一口」

「え?」

「もう一回、味見」



帰るね、と発する寸前に遮られた言葉。
次の瞬間には――



「……んっ!」



キッチンに背を預けた体制のまま、どういうわけか彼に強く唇を押し付けられていた。
びっくりして目をパチクリさせていると、寿は一度離してもう一度口付けてくる。



「な、にっ」

「味見」

「あっ……」

「煮物と、」

「噛ま、ない……でっ」

「仙道の女の味見」



意味わかんないんですけど……! prev / next

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