君がほしい | ナノ
▼ 
「バスケットボール、」

「ん?」

「どうしてやめちゃったんですか?」



悲しそうな表情。
どこかジェラシーを感じさせるような口調。
見え隠れする羨望の眼差し。

撮影する選手を眺めている時の牧部長は、いつもそんな雰囲気だった。



「……怪我を、したんだ」

「怪我?」

「大学のインカレで試合中にちょっと、な」

「……」

「靭帯を損傷する重傷だったよ。それからドクターストップがかかって、バスケは辞めたんだ」



遠くを見つめる瞳。
それは何年も前の、当時のことを思い出しているんだろうか。
私にとっては遠い昔でも、部長にとっての時間は止まったままなのかもしれない。
……バスケの思い出の時間は。

高校時代は”帝王”なんて呼ばれていて。
神奈川ナンバーワンプレーヤーとまで謳われた選手だ。
そう簡単にバスケットを忘れられるわけがない。
未練を百パーセント全部心の中から消し去るなんて、私が部長の立場でも無理なはずだ。



「……余計なことを聞いてしまってすみません」

「別にいいさ、苗字になら」



私になら、って……



「それに今はこの仕事に誇りを持っている」

「……」

「そりゃたまにアイツ等が羨ましくなる時もあるけど、」

「……」

「自分の人生に後悔はない。バスケット人生も、やるべきことはできるうちに全部やり切ったしな」

「部長は、強いですね」

「ふっ……そう思うか?」

「……え?」



牧部長はそれ以上は答えてくれなかった。
でも十分だった。
私なんかに話してくれただけで、それだけでも十分嬉しかった。
……何ができるってわけじゃないけど。


これからの目標は月刊バスケットボールの人気を今以上に高めること。
それ以上にバスケットボールの浸透度を国内で高めること。

だと、牧部長は言い切った。
その表情は少しだけ何かが吹っ切れたようにも見えた。



「ついていきます、どこまでも!」

「突然なんだ?」

「私、牧部長に最後までついていきますから!」

「お、おう、そうか」

「これからもご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします!」



目を細めて、ふっと微笑んだ牧部長。
彼は私の尊敬する上司だ。 prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -