君がほしい | ナノ
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グツグツとお鍋の中のロールキャベツが煮立つ。
コンソメの良い香りとマッチして食欲がそそられること間違いなし。
あともうちょっと煮込めばオーケーかな?


この部屋にはもう何度も来たことがある。
こうやってご飯を作って待ってることも初めてじゃない。
おかげで合鍵なんてものまでもらっちゃってたりする。

やってることは確かに彼女と変わらない。
実際の関係性は、言い方悪いけどただのセフレ……だよね。
仕事仲間、とも呼べるけど……しっくりこない。
まあ今更悩んだところで、もう全部始まっちゃってるわけで――どうこう言っても遅いのはわかってるんだけどね。


テーブルの上に散らばっている月刊バスケットボールを本棚にしまう。
そういえば先月号の表紙も仙道くんだったっけ。
来月号は流川くんと二人だけど……読者の反応が気になるところだ。

テーブルのセットをしているとガチャガチャと鍵の音が聞こえてきたので、仙道くんが帰ってきたみたい。



「いい匂いがする」

「おかえり」

「ただいま、名前さん」



肩にかけていたエナメルを床に置いて、さも当たり前のようにキスを落とす仙道くん。



「ロールキャベツ?」

「そうだよ。リクエストしたの自分じゃない」

「はは、確かに。味付けはー?」

「コンソメにしたんだけど……平気?」

「ん、大好物。あっさりしたのがいいなーって思ってたところ」

「よかった!じゃあ手洗ってきちゃって」



仙道くんが戻ってきたのを確認して、テーブルにお皿を並べて向かい合って座る。
……といいたいところだが、実は違う。

変なしきたり?のせいで、なぜか隣同士に座って食べるのが彼のルールらしい。
だからって、肘がぶつかるくらいくっついて食べるのは食べづらいって何度も言ってるんだけどなぁ。

おいしいおいしい、と頬張ってくれる仙道くんは家ではプロのバスケットボール選手、というよりはただの青年だ。
なんていうのかな、男の子っぽい?



「すっごい美味しい」

「喜んでもらえてよかった!スーパーに行ったらちょうどお肉が最後の一パックでね、」

「買えたんだ?」

「うん……っていうか、譲ってもらった?」

「譲ってもらったの?」

「『譲ってやるよ』って言われた」

「随分と上から目線の人だったんだね」

「そうなの!身長も高いし体格もよくて、ちょっと怖い感じの人だったよ」



譲ってくれたから文句は言わないけど。
……心の中でしか。



「何にもされなかった?」

「スーパーで何かされるわけないでしょ!」

「名前さんかわいいからナンパでもされたかなって」

「仙道くんじゃないんだからそんなにしょっちゅうナンパなんてされません」

「えー、俺もそんなにされてないのに」

「ウソ!社員の子がご飯行く約束したって喜んでたよ」



わざとらしく突っかかってっみるが、仙道くんは顔色一つ変えない。
ニコニコしながら相変わらずロールキャベツを頬張っているだけ。


彼が他の社員と連絡先を交換しているのは知っている。
ご飯に行ったりしてるのも社員の子が次の日には大声で自慢してるから情報として耳に入ってくる。
もしかしたら……それ以上のこともあるのかもしれない。

さすがにそこは、聞けないし聞かないけど。 prev / next

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