▼ ロールキャベツ
帰り道、仙道くんの家の最寄りのスーパーに寄った。もちろんロールキャベツの具材を買うためだ。
味付けはコンソメか、トマトソースか、ホワイトソースか。
どれにしようかと考えながらお肉コーナーに立ち寄ると、今日は特売日だったらしくほとんど残っていなかった。
奇跡的に一パックだけ残っていたひき肉に手を伸ばすと――
「……あ、」
「あ?」
反対側からもう一つの腕が伸びてきて、同じパックを手に取った。
「すみません」と反射的に手を離すと、相手の人も「わりぃ」と言ってなぜか手を離す。
「一つしか残ってないですね……」
「ん、ああ。アンタに譲ってやる」
「え、いいんですか?」
「まだメニュー決めてないし食えりゃなんでもいいからな」
男の人はハハッと白い歯を見せて笑う。
身長高い人……
190センチくらいだろうか。
仙道くんや流川くんと同じくらいかな?
細身の割りには筋肉質な体型に思わず見入ってしまう。
「……見過ぎじゃねぇ?」
「あっ、ごめんなさい。結構身長あるなーと思って」
「身長?184くらいじゃねぇか?」
「じゃあ仙道くんや流川くんよりは低いか……」
「仙道と流川?」
「あ、こっちの話。気にしないで下さい」
私の言葉に男の人は考え込むように眉間にシワを寄せる。
「それより、ほんとにいいんですか?」
「……ん?ああ」
「ありがとうございます!これで全部買えた、かな」
あとはソースをどうするか、だけど。
今日はあっさりコンソメにしようかな。
あとはポテトサラダでも作って……
「何作るんだ?」
「ロールキャベツにしようと思ってます」
「へぇ、うまそう」
「そんな大したものじゃないですよ。一般的な家庭料理しかできないので」
「それで十分だろ。誰も彼女にプロの味なんか求めねぇ」
「そうなんですかね?まあ一応、ありがとうございます?」
「せいぜい彼氏に美味しいロールキャベツ作ってやれよ、俺の譲った肉で」
俺の譲った肉で、って……なんて恩着せがましい人なの。
譲ってもらっておいてこんなこと言うのも失礼かもしれないけど。
……ん?
彼女?彼氏?
反応する頃には男の人はとっとと行ってしまった後だった。
良い人なのか、失礼な人なのか。
……なんかよくわかんない人だったな。
まあひき肉買えてラッキーだから、全てよしとしよう!
時刻は18時。
彼が帰って来るまで、あと少し。 prev / next