君がほしい | ナノ
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流川くんと一緒にスタジオ入りをした。
周りのスタッフやカメラマンさんにも一緒に頭を下げる。
遅刻した張本人は思いっきり心のこもっていない棒読みだ。

それじゃあ撮影再開しまーす、とカメラマンさんが叫んだ。



「ったく、アイツには困ったもんだな」

「部長、すみません。次回はこういうことがないようにしますので」

「ああ、頼んだ。ただ流川は高校の時からこういう奴だったから」

「……そうなんですか?」

「いつも眠そうな顔して遅刻してくるからよく怒られてたよ」



部長は当時を懐かしむように笑った。
後は頼む、と言ってスタジオを出て行く部長から報告書だけ受け取った。
撮影が終わった後に記入して提出しなければいけないのだ。

撮影の続く、セット内に目を向ける。
そこには笑顔とは程遠い表情した流川くんがカメラを射るように見つめている姿があった。


流川楓。
23歳。
無愛想というかクールというか、口数の少ない新人広告塔くん。
仙道くんとは違ったモテるタイプの男子ですでに社内にも彼のファンが数多くいる。
高校時代は全日本ジュニアユース、大学時代は全日本ユース、そして現在は全日本――と、国内屈指のプレーヤーだ。

ちなみに遅刻魔。
それからよく眠る。


ソロが終わると仙道くんと流川くんが並んで立った。
まとっているオーラも雰囲気もまるで正反対の二人。
でも、さすが。
圧倒的な威圧感と存在感でスタジオを自分のコートと化していた。


撮影が終わると、戻ってきた二人を別室に案内して専属のインタビュアーを呼んだ。
先月行われたアメリカチームとの練習試合のインタビュー記事を書くためだ。
彼らの記事を書きたい人間は五万といる。
だが、個人契約をした時点でそれは全てウチの会社の特権なのだ。
噂によると、これは牧部長の提案らしい。



「これ、いつまで続くんだ」



仙道くんがインタビューを受けている間、流川くんがこっそり耳打ちしてくる。



「さぁ?」

「ねむい」

「一番遅くまで寝てたくせに文句言わないの!それに流川くんはこの後練習でしょう?」

「……そうなのか」



そうなのか、って。
自分の予定も把握してないのね。
はぁっとため息が出てくる。



「アンタは?」

「苗字名前。何度も言ってるでしょ!」

「……名前サン、」

「はい、何でしょうか」

「この後、何してんだ」

「報告書書いたり、部長に提出しに行ったり、次の二人のスケジュールチェックしたり」

「ふーん」

「あ、ほら、流川くん呼ばれてるよ」



インタビュアーさんが流川くんを呼ぶと、心底嫌そうな表情を浮かべながら彼は席を移動する。
なんだかんだやってくれるんだよね、新人くんは。

なぜだかクスリと私の顔から笑みがこぼれた。 prev / next

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